「愛を耕すひと」

「愛を耕すひと」ⓒ2023 ZENTROPA ENTERTAINMENTS4, ZENTROPA BERLIN GMBH and ZENTROPA SWEDEN AB

2025.2.14

特選掘り出し!:「愛を耕すひと」 狂気が生む惨劇の先に

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

18世紀半ばのデンマークを舞台にした歴史劇。貴族の称号を得るため、未開の荒野を開拓しようとする退役軍人の姿を映し出す。デンマークのアカデミー賞たるロバート賞で作品賞、主演男優賞など9部門を受賞した。無謀な挑戦に身を投じたケーレン大尉(マッツ・ミケルセン)を待ち受けるのは、あまりにも過酷な寒冷地の自然環境。おまけに地元の若い有力者シンケル(シモン・ベンネビヤーグ)はサイコパスのような冷血漢で、よそ者のケーレンを迫害する。

寂寥(せきりょう)感漂う壮大な風景に圧倒されるこの叙事詩は、共感しがたい無愛想な主人公ケーレンの人間性回復のドラマが軸となる。孤独なケーレンは、夫を亡くした使用人、不吉と忌み嫌われるタタール人の少女との共同生活の中で、心の潤いを取り戻していく。繊細なニュアンスで内面の変化を伝えるミケルセンの演技はさすがだ。

後半はさらなる残酷な試練が降りかかり、過ちを犯したケーレンは失意のどん底に突き落とされる。登場人物の狂気や怨念(おんねん)が、血生臭い殺りくと復讐(ふくしゅう)を招き寄せるストーリー展開にがくぜん。甘さや感傷は一切なし。ゆえに、最後のかすかな希望に胸を打たれる。ニコライ・アーセル監督。2時間7分。東京・シネスイッチ銀座、大阪ステーションシティシネマほか。(諭)

この記事の写真を見る

  • 「愛を耕すひと」
さらに写真を見る(合計1枚)