毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2024.12.13
「アイヌプリ」 今を生きるアイヌの文化
アイヌの歴史や文化を背景にした映画が次々と公開されている。本作は、現在に生きる等身大のアイヌの家族に密着したドキュメンタリー。北海道白糠町で暮らす天内重樹(シゲ)は、先祖から続くサケ漁の技法など文化を実践し息子に伝えている。カメラはシゲ一家やその仲間を追いつつ、自らのルーツを大事に今を生きる、彼らの日常を荘厳な大地とともに映し出す。
シゲの家族には、アイヌの文化を守り継承していこうという気負いがない。「好きだからやっている」という言葉のように、マレプ漁と呼ばれるサケの捕獲や踊りが、彼らの生活の一部として溶け込んでいる。息子もそうした父の姿に憧れを感じている。無理がないだけでなく人間味が感じられてほほ笑ましい。鹿を撃ち、解体するシーンでは、生き物を捕り、食べる際に感謝をささげるアイヌの文化、命の重みを強く感じる。「リベリアの白い血」などマイノリティーを描き続けてきた福永壮志監督とシゲらとの距離感が生み出した映像であることも付け加えたい。1時間22分。東京・ユーロスペースほか。大阪・第七藝術劇場(2025年1月2日から)など全国でも順次公開。(鈴)
ここに注目
「文化」は本来、研究や観察の対象ではなく、生活にほかならない。そしてある営みが「文化」として共有され継承されるためには、面的な広がりが必要だ。シゲ一家の背後にはアイヌ文化の中で生活する共同体があり、映画にはその奥行きが感じられる。効率と生産性優先の「文明」に負けないことを願う。(勝)