「バービー」 © 2023 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.

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2023.8.18

この1本:「バービー」 男性社会、ヒネって両断

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

女性の声を代弁する映画が続々と作られている中でも、「バービー」は出色だ。米マテル社の着せ替え人形を主人公にした実写映画。男性社会を一刀両断しつつ、返す刀を女性にも向ける。キワモノ風の装いながら、知的で刺激的なコメディーだ。

バービーたちが暮らす「バービーランド」は、さまざまな職業の女性=バービーが活躍する一方で、ケン=男性はバービーの歓心を得るのが仕事の女性中心社会。〝誰もが思い浮かべるタイプ〟の定番バービー(マーゴット・ロビー)も完璧な調和と幸福の中で暮らしていたのに、ある日突然、死について考え始め、皮膚の劣化が始まった。現実世界の異変が影響していると知り、ボーイフレンドのケン(ライアン・ゴズリング)と修復のために人間界に向かう。

男性社会の人間界で、バービーが好色な男たちの目にさらされる一方で、ケンは男が女の上に立つのを見て上機嫌。実社会を戯画化した風刺で笑わせるが、このあたりはまだ序の口。さらなるヒネりが待っている。

バービーは少女たちに、自分は自己実現した女性の理想像と胸を張る。ところが返ってきたのは「資本主義の究極」「ファシスト」と手ひどい反撃だ。乗り込んだマテル社は「女性を後押ししてきた」と言うくせに、重役会は男だけ。バービーは自信喪失して混乱する。一方ケンは、バービーランドのバービーたちを洗脳して男性にかしずかせ、男性中心の「ケンダム」に作りかえた。

グレタ・ガーウィグ監督は「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」で定番のお話を語り直した。本作でも〝男性に抑圧された女性〟という単純な図式を脱し、一筋縄ではいかない現実を反映する。バービーは自分に異変をもたらした人間のグロリア(アメリカ・フェレーラ)と、女性主権復活を求める戦いに臨むが、これも元に戻って一件落着とはいかないのだ。映画のメッセージは「自分のままでいい」と明快だ。しかし定番バービーは「じゃあ自分って何?」と思い悩み、ケンと一緒に自分探しに右往左往。ヒネりすぎて迷走した感もあるものの、才気あふれる一作。

1時間54分。東京・TOHOシネマズ日比谷、大阪・TOHOシネマズ梅田ほかで公開中。(勝)

ここに注目

フェミニズムや多様性、ルッキズムについてのメッセージを、ピンク色の映像とユーモアで包んだガーウィグ監督。「2001年宇宙の旅」のパロディーでバービー誕生の衝撃を伝える冒頭から、男たちが「ゴッドファーザー」の解説をしたがる場面まで、笑いにあふれた作品だ。理不尽な現実を生きる女性たちの思いを代弁するアメリカ・フェレーラのセリフに力強さも。ステレオタイプなバービーになり切ったロビーが素晴らしいのはもちろん、有害な男らしさに染まるケンの無邪気な悲しさが伝わるのは、ゴズリングが演じているからこそだろう。(細)

ここに注目

いかにもアメリカンな八頭身のバービーより、旧タカラ社のリカちゃん人形に親しみを感じてしまう筆者のような昭和生まれのオジサンも、「2001年宇宙の旅」をパロディー化した冒頭には大笑い。パステルカラーに染まったバービーランドのポップな世界観には引いてしまったが、バービーが人間界とのパラレルワールドを行き来するアイデアが面白い。バービーの自虐ネタを盛り込んだり、販売元のマテル社のCEO(ウィル・フェレル)を間抜けに描いたりと、多様性やフェミニズムなどのテーマの伝え方もユーモアたっぷり。(諭)

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