「ボーはおそれている」 ©2023 Mommy Knows Best LLC, UAAP LLC and IPR.VC Fund II KY. All Rights Reserved.

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2024.2.16

この1本:「ボーはおそれている」 不可解さ倍増の大怪作

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

「ヘレディタリー/継承」「ミッドサマー」で現代ホラーの新境地を開拓したアリ・アスター監督。新作もシュールな神経症的悪夢という点では共通だが、本作はリミッター解除、不可解さ倍増でしかもコメディー調。大怪作である。

極度の心配性であるボー(ホアキン・フェニックス)が、母親の元に向かう道中の災難を描く――という筋立ては単純だが、4章仕立ての行程たるや奇々怪々。第1章で、不穏な一角に暮らすボーは敵意と暴力にさらされ家から閉め出され、あげくに半殺しの目に遭う。第2章で親切そうな医師一家の屋敷に滞在するが、医師夫妻は戦死した長男の代わりに精神を病んだその戦友を世話し、長女は親に愛されていないと思い込んでいる。森の中のコミュニティーに紛れ込む第3章、第4章は最後の審判風。

アスター監督の意識と潜在意識を探索する脳内ツアーのようでもあり、現代社会とそこに暮らす人間の病理のカタログのようでもある。しかもそのカタログは、並べて見せる体ではなく、一つ一つを細かく砕いて混ぜ、四つに分けて違う趣向で投げつける風情。世界中にはびこる暴力と犯罪と無秩序の脅威があり、戦争がもたらす消すことのできない傷痕と社会に及ぼす負の影響、宗教的救済への希求と不安。性的衝動とそれに伴う罪悪感、母親と息子との間の権力構造、不在の父親、家族の崩壊……。ボーはそれらにもみくちゃにされ、終始おびえて逃げ回る。

幕を開けるたびにジャンルも雰囲気も変わる。第1章は戯画的なドタバタ劇、第2章はサイコホラー的ホームドラマ、第3章は舞台劇とアニメも動員した悪夢的なファンタジー。第4章に至っては、怖いのかおかしいのか分からなくなってくる。どれもが重量級で、奔放なイメージと詰め込まれたディテールに混乱しながら夢中になり、気づけばおなかいっぱい、胃もたれしそう。訳が分からんと怒るか、すごいものを見たとあっけにとられるか。覚悟してどうぞ。2時間59分。東京・TOHOシネマズ日比谷、大阪・TOHOシネマズ梅田ほか。(勝)

ここに注目

機能不全の家族が紆余(うよ)曲折を経て、最後に絆を取り戻す。そんな筋立ての感動作は世にあふれかえっているが、アリ・アスターの映画には救いが一切ない。今回は母親の呪縛という主題を、とめどもなく誇張した不条理な悪夢として映像化。不安症にさいなまれるボーの混乱をスラップスティックに見せる序盤など、独創的な演出力はさすがだが、その後は支離滅裂、意味不明な描写の嵐が吹き荒れ、こちらの感性もまひ状態に。近年屈指の悪夢映画「オオカミの家」の監督コンビが手がけたアニメパートが出色。(諭)

技あり

パベウ・ポゴジェルスキが撮影監督。広い空間を撮るのがうまく、ボーが住むわい雑な街の昼夜、終盤にたどり着く大プールなど大掛かりな撮影をそつなくこなす。基本的に俳優らに光を当て、どう見せるかが仕事。冒頭ボーがかかりつけの精神科医の所に来る。医者と低い机を挟んで座り、それぞれの横顔の切り返しで始め、医者を入れ込んだボーになり、歯磨きを飲んでがんにならないか心配する。巨体の医者は一段と大きく、ボーはレンズの効果もあり小さく見え、カリカチュアライズされた感じも出た。(渡)

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