「ブラックバード、ブラックベリー、私は私。」

「ブラックバード、ブラックベリー、私は私。」 ©-2023-ALVA FILM PRODUCTION SARL-TAKES FILM LLC

2025.1.10

「ブラックバード、ブラックベリー、私は私。」 ファンタジーやユーモアもちりばめたフェミニズム映画

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

とある田舎で日用品店を営む中年女性エテロ(エカ・チャブレイシュビリ)が、ブラックベリー摘みの最中に崖から転落してしまう。命を取り留めて店に戻ったエテロは、配達員の男性を相手に初めてのセックスを経験。それをきっかけに孤独な彼女の人生に変化が生じていく。

これが日本初登場となるジョージアのエレネ・ナベリアニ監督の長編第3作。同国の作家タムタ・メラシュビリのベストセラー小説を原作にしたオフビートなドラマだ。主人公のエテロは48歳で独身、豊満な体形と相まって、保守的でうわさ好きの村人たちにさげすまれている。ところが本作はエテロを哀れで卑屈な存在としては描かない。結婚が女を幸せにするのか。独りだけど生きていける。旧来の価値観や偏見にあらがうフェミニズム映画だが、語り口はひょうひょうとしていて、ファンタジーやユーモアもちりばめた柔らかな作風が新鮮。チャブレイシュビリの堂々たる存在感、主人公の未来の選択を観客の想像に委ねる結末も忘れがたい。1時間50分。東京・ヒューマントラストシネマ有楽町ほかで公開中。大阪・第七藝術劇場(18日から)など全国で順次公開。(諭)

ここに注目

ベリーを摘み、鳥のさえずりを聴き、落ち着いた色合いの部屋はミニマルだが整えられている。孤独を能動的に受け入れているエテロの暮らしぶりは居心地がよさそうだ。自由を求める気持ちや欲望に忠実になった彼女が見つけるものは、希望か、それとも? エンディングについて、誰かと話したくなる。(細)

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