「ボストン1947」

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2024.8.30

「ボストン1947」 混迷の時代を生き抜いた人々の勇気

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

1936年、ベルリンオリンピックのマラソン。当時日本統治下だった朝鮮半島出身のソン・ギジョン(ハ・ジョンウ)とナム・スンニョン(ペ・ソンウ)は、日本代表として参加し金、銅メダルを獲得した。第二次世界大戦終結とともに朝鮮半島は解放されたが、記録は日本のまま。荒れた生活を送っていたソンに、ナムは「ボストンマラソンに韓国代表として若い選手を出場させよう」と持ち掛ける。

朝鮮半島南部が米軍の支配下にあった47年、太極旗を付けて国際大会で走ることを望んだ、ソンや選手たちの物語だ。「シュリ」「ブラザーフッド」のカン・ジェギュ監督は実話に基づきながらも政治的なメッセージを前面に打ち出さず、混迷の時代を生き抜いた人々の試練と勇気をドラマチックに描いた。当時の運動着や運動靴を再現し、ボストンの街並みをコンピューターグラフィックスでよみがえらせるなど、徹底したスタッフワークでリアル感を創出した。五輪や世界的スポーツ大会の政治利用や国威の宣伝は当時から激しく、歴史的事実に思いをはせる作品にもなっている。1時間48分。東京・新宿武蔵野館、大阪・テアトル梅田ほか。(鈴)

ここに注目

虐げられた祖国への思いを込めて懸命に戦うソンたちの姿は感動的だ。さすがカン・ジェギュ監督、屈辱的な扱いをはね返す力走を、思わず応援したくなる胸熱な作り。しかし一方で、人間の尊厳を奪い悲劇の元となる「国」という枠組みや、そこに縛られる人間の不幸も痛感させられる。(勝)

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