ひとしねま

2023.4.14

チャートの裏側:面白いと感じる人が減る?

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

待っていた。だが、順位は上がらない。これほど面白い作品が、なぜなのか。「仕掛人・藤枝梅安2」だ。前作同様に、見事な出来栄えを見せた。梅安と彦さんが、京の都に向かう。彦さんが恨みをもつ人物への新たな仕掛け、さらに別の仕掛人がからむ。梅安と彦さんの過去が、背後に黒々と横たわる寸法だ。

2人の連係プレーがいい。あうんの呼吸で、次から次へと難事を乗り越えていく。前作ほどの濃密な関係はないが、言葉や動作ですぐに2人はわかり合う。そうしないと命が危ないということもある。命のやり取りを介し、とくに梅安は強烈な無常感を漂わせていく。

仕掛ける者と標的になる者が、善と悪の世界に色分けされているのではない。この世の不条理が、端正な舞台装置のなか、画面の隅々にまで行き渡る。無常感、不条理は、映画にえも言われぬ奥行きを与える。敵を待つ彦さんのセリフではないが、本当に「ゾクゾクする」。 

観客の年齢層が高くなるのは致し方ないとして、考えることがある。ひょっとして、この無類の面白さを、面白いと感じる人が減っているのではないか。映画との接し方の変化を痛感する。情報も多いとは思えない。作品の存在自体を知らない人も少なくないだろう。何とも残念だが、見る側と送り手双方に、いろいろ難題がありそうだ。(映画ジャーナリスト・大高宏雄)

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