ひとしねま

2024.2.16

チャートの裏側:観客に届いた優しさ

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

人と人の関わりを、その奥深くまで分け入って描く作品が、観客にしっかり届いている。初登場4位の「夜明けのすべて」で、4日間では興行収入が約1億9000万円を記録した。最終では、5億円突破が期待できるという。派手な内容ではない作品だから、うれしさが募る。

PMS(月経前症候群)を抱える女性と、パニック障害を持つ男性の話を軸にした。2人は同じ職場に勤める。ぎくしゃくしていたお互いの距離が、丁寧な描写の積み重ねで、次第に縮まっていく。言葉の微細なやり取り、違う色を見せる2人の表情の変化。うなるシーンが多い。

加えて、作品の魅力の幅を存分に広げたのが、仕事場の数々の情景だろう。社員10人に満たない小さな会社だ。皆、人間関係を大切にしながら仕事をしている。そうしなければ、会社はつぶれる。食事に誘う。差し入れをする。ささいな言葉、やり取りが胸を締め付けてくる。

時代が求めている作品だと思う。優しさや人を思う気持ち。心に傷を負った者が知る人の痛み。さりげない気遣い。言葉では簡単に言えてしまうが、ではそれらの言葉の実体はどうなのか。本作は、その実体を深い説得力のもと、具体的に描いていく。ここが圧巻なのだ。映画を見ながら、幸福と思える瞬間が何度もあった。この幸福感の意味を考え続けている。(映画ジャーナリスト・大高宏雄)

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