ひとしねま

2023.3.03

チャートの裏側:「道」の描き方にモヤモヤ

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

予告編などから、コミカルな作品と思い、どれだけ笑えるか期待した。「湯道」である。客席には二、三度、少数の人のクスクス笑いはあったが、それが笑いの渦として、場内全体に広がることはなかった。笑いを狙った作品ではない。それを期待したのが間違いだった。

期待と作風の軽い調子から、妙なモヤモヤがあった。笑いの一歩手前で、シリアスな内容が前面に出てくる感じだ。これが、見る者の気持ちをちょっと混乱させる。笑いを、もっとひっぱり出してくれないか。そういう作品ではないことは承知しつつ、モヤモヤ感は続いた。

よくよく考えれば、タイトルは「湯道」だ。茶道や華道に通じる日本的な「道」を描くのがテーマである。温泉や銭湯などを舞台に、日本的な自然の尊さを背景にした湯の道の極意、伝統のかけがえのなさなどが盛り込まれる。シリアスになるのも、わからないことはない。

とはいえ、モヤモヤ感は興行に反映されたのではないか。最初の4日間の興行収入は約2億円。いささか、物足りない。湯の道、銭湯にまつわる人間模様をシリアスに展開しても、客層の広がりは限定的な気がした。大真面目なテーマだからこそ、その軽い調子のなかで笑いの束をたぐりよせてみる。そのほうがインパクトがあったと思う。(映画ジャーナリスト・大高宏雄)