毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2023.8.25
「エリザベート 1878」
ヨーロッパの宮廷一の美貌を誇ると言われていたオーストリア皇妃、エリザベート(ビッキー・クリープス)。1877年のクリスマスイブに40歳となった彼女は、容姿の衰えを感じていた。細いウエストをコルセットで締め上げ、食事にも気を使って周囲からの期待に応えようとする日々。しかし自由も刺激もない毎日の中で孤独を深めた彼女は旅に出て、一人の人間としての戦いを始める。
「シシィ」の愛称で親しまれたエリザベートの1年間を切り取った、異色の伝記映画。お飾りのような存在だった彼女の〝革命〟を、クリープスが肉体を通して鮮やかに表現した。長い髪の毛を自ら切るシーンは、自己解放の象徴とも言える。エイジング、ルッキズム、男性社会の中での女性の地位の低さ。マリー・クロイツァー監督は19世紀後半を舞台にしながら、現代と地続きの問題を生々しく描き出した。豪華絢爛(けんらん)な美術を背景に流れるのは、フランスのシンガー、カミーユをはじめとする楽曲。その歌声も、今と過去とを縫い目なくつなぎ合わせている。1時間54分。東京・TOHOシネマズシャンテ、大阪ステーションシティシネマほか。(細)
ここに注目
宮殿のしきたりや自身のイメージに反抗し、自由と解放を求めるエリザベート。クロイツァー監督の演出がさえる。カミーユの音楽は象徴的で、テーマ曲「She Was」は哀切と強い意志を秘めた彼女の内面を、現代的かつ芸術的に表現して効果的。今日を生きる女性たちへの共感をかきたてる。(鈴)