「フェイブルマンズ」 ©2022 Universal Pictures. ALL RIGHTS RESERVED.

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2023.3.03

特選掘り出し!:「フェイブルマンズ」 夢をつかんだ天才の原点

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

スティーブン・スピルバーグ監督が少年時代の記憶を基に撮り上げた自伝的作品だ。ユダヤ系一家に生まれたサミー(ガブリエル・ラベル)は幼い頃、8㍉カメラに親しむ。サミーは自主映画作りに熱中するが、芸術家肌の母(ミシェル・ウィリアムズ)とは違い、科学者の父(ポール・ダノ)は彼の夢を理解してくれなかった。

前半は典型的な機能不全の家族の話で、後半の高校生活のドラマにも新味はない。しかしあらゆる場面がカメラを手にして繊細な感性を育んでいった少年の視点で描かれ、特別な輝きや驚きを放つ瞬間がある。特に初めての映画館で「地上最大のショウ」に興奮したサミーが、列車事故を模型で再現しようとする姿はほほ笑ましい半面、スピルバーグという天才監督の狂気の芽生えを感じさせる。

もうひとつ印象深いのは、家族の秘密が刻まれたホームムービーのエピソード。それを目の当たりにしてショックを受ける少年の痛みは、同時に残酷な真実をも映し出す映像の力を物語る。そして最大のサプライズはラストシーン。意外な配役による〝あの人〟のまさかの登場にびっくりした。2時間31分。東京・TOHOシネマズ日比谷、大阪ステーションシティシネマほか。(諭)

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