「ゴッドランド/GODLAND 」 © 2023 ASSEMBLE DIGITAL LTD. ALL RIGHTS RESERVED.

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2024.3.29

この1本:「ゴッドランド/GODLAND」 孤独な異境の旅の果て

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

アイスランドから不思議な映画がまた一つ。かの国から日本に来る作品、「馬々と人間たち」(2013年)、「LAMB/ラム」(21年)など〝常識〟では計り知れない。本作も、荘厳な自然とちっぽけな人間の苦悩が奇妙な遠近感で対比されている。

19世紀後半、デンマークの牧師ルーカス(エリオット・クロセット・ホーブ)は教会建設のため、アイスランドへ派遣される。ルーカスは風景や人々を記録するために陸路を選び、湿板写真機など大量の荷物を積んだ馬の隊列が、現地のラグナル(イングバール・E・シーグルズソン)を案内人に荒野を進むことになる。

映画の前半は、ルーカスの惨めで困難な旅を追う。言葉は通じず厳しい地形と気候に阻まれる。ラグナルとはそりが合わず、頼りにしていた通訳も失ってしまう。意思疎通はままならず孤独を深め、心身ともバランスを崩していく。

後半、目的地に着いたルーカスは、デンマークからの入植者一家の元で回復し、娘アンナ(ビクトリア・カルメン・ゾンネ)とひかれ合う。一方でルーカスは、相変わらず現地の言葉を解そうとせず、ラグナルとの溝も深まっていく。アンナの父親もルーカスを警戒し始める。

物語は、アイスランドがデンマークの植民地だった歴史的背景を映している。ルーカスの優越意識と見知らぬ土地での無力感、ラグナルの反発心と宗教への畏怖(いふ)がもつれ合う。過酷な旅の間に生死の境をさまよったルーカスの信仰は、アンナにより揺らぎ出す。

分かり合えない人間たちの葛藤が、四季を巡って撮影されたアイスランドの雄大な風景の中に置かれる。荒涼とした平野、山。そして水。ルーカスは荒れる海を越えてアイスランドに上陸し、湿地を歩き川を渡り、雨にぬれながら旅を続ける。自然は人を寄せ付けず敵対的ですらある一方で、冷厳で美しい。倫理や法を超越した結末も、この土地の魔力のせいかと腑(ふ)に落ちてしまうのである。

フリーヌル・パルマソン監督。2時間23分。東京・シアター・イメージフォーラム、大阪・シネ・リーブル梅田(4月5日から)ほか順次全国でも。(勝)

ここに注目

ルーカスは尊大で身勝手、おまけに内にこもりがちな性格で、これほど感情移入しづらい主人公も珍しい。しかしロードムービー仕立ての前半は、アイスランドの大自然が余すところなく映し出され、氷河に覆われた湖、マグマがあふれ出す火山地帯の絶景に息をのむ。やがてルーカスは瀕死(ひんし)の状態で目的地に着くが、教会の建設という使命はどこへやら。信仰も理想も失った主人公が、ついには狂気へと駆り立てられる数奇な旅路。諸行無常という言葉が脳裏をよぎる結末も圧巻。(諭)

技あり

パルマソン監督との仕事で受賞歴があり、映像作家としても活動するマリア・フォン・ハウスボルフ撮影監督。画像の特徴は、まず映画創成期のスクリーンサイズ、1対1.33の縦横比。当今の幅広の画(え)にない魅力を感じる。天地いっぱいの七分サイズやバストショットの人物が新鮮だ。撮影機の露光窓の四隅を、硬い直線ではなく「女性的な美しい」曲線にした。また用具重量50㌔といわれる湿板写真が時代色を出した。撮影寸前に感光剤を塗布、撮影後すぐ現像定着する。大掛かりな仕掛けは、現場で「装飾」としても重宝された。(渡)

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