毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2023.3.31
「GOLDFISH」
ギタリストのイチ(永瀬正敏)は1980年代、社会現象を巻き起こしたパンクバンド「ガンズ」で活動していたが、メンバーが事件を起こし活動休止に追い込まれる。30年後、アイドルのレコーディング現場でギターを弾くイチは、ボーカルのアニマル(渋川清彦)に誘われ再結成へ動き始める。活動休止の原因となったハル(北村有起哉)を含めたメンバーがそろい、リハーサルが始まる。
若かりしイチらを若い俳優やミュージシャンが演じ、中年になった彼らとの対比が印象的に描かれる。世の中の最先端を走っていたつもりが、いつの間にか時代に取り残されていたという感覚は、中年なら誰もが味わったことがあるはず。再結成に踏み出したイチらの姿は、今の自分を大切にしようというメッセージなのかもしれない。
80年にデビューしたパンクバンド「亜無亜危異(アナーキー)」のギタリスト、藤沼伸一が映画監督に初挑戦。メンバーの逮捕など自らの経験を色濃く反映した。1時間39分。東京・シネマート新宿、大阪・シネマート心斎橋ほか。(倉)
ここに注目
劇伴を含め、心地よい音楽を反すうした。藤沼監督が自身の体験に浸りすぎず、少し引いた目線で向き合ったことで、音楽映画の枠を超えて広がりが生まれた。30年後のロッカーたちの言動からは、今なおロックしている中年たちの青春映画の趣が強く映し出されている。(鈴)