「HAPPYEND」

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2024.10.04

「HAPPYEND」 若き才能が描き出す独特の世界観

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

ある夜、校舎に忍び込んで大胆ないたずらを仕掛けた高校生のユウタ(栗原颯人)とコウ(日高由起刀)。激怒した校長(佐野史郎)は、生徒たちを監視するAIシステムを導入する。このことをきっかけに、自身の在り方や将来について考えるようになったコウと、それまでと変わらずに仲間たちと悪ふざけをする日々を送るユウタ。幼なじみで親友だったふたりの関係が、少しずつ変わり始める。

舞台となっているのは、国によって徹底的に個人情報が管理されている近未来。さまざまな家庭環境やルーツを持つ子供たちが暮らし、差別や格差のある社会は現代とほとんど変わらないように見える。地震警報が鳴り響き、政権への不満を抱えた人たちがデモを行っている日本。街の風景はSF的に切り取られているが、生徒たちの様子には学生運動が盛んだった時代の香りもあり、そのギャップが胸を締めつけるような独特の世界観を生んだ。坂本龍一のコンサートドキュメンタリーを手がけた、空音央監督の長編劇映画第1作。若き才能の次回作が早くも楽しみになる。1時間53分。東京・新宿ピカデリー、大阪・テアトル梅田ほか。(細)

ここに注目

人権無視や差別、権力の横暴の描き方には現実感があり、加速度的に進む政治や社会の右傾化、若者の意識の変化にも恐怖を覚えた。教育現場の保守化はその根っことして存在しているが、一方で若者の不安や葛藤、ためらいのみずみずしい表現にも共感。まさに、今の時代の青春映画だ。(鈴)

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