「ハロルド・フライのまさかの旅立ち」 © Pilgrimage Films Limited and The British Film Institute 2022

「ハロルド・フライのまさかの旅立ち」 © Pilgrimage Films Limited and The British Film Institute 2022

2024.6.07

「ハロルド・フライのまさかの旅立ち」 人生の喪失や悔恨、そして再生の物語

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

英国南西部の郊外で穏やかな老後生活を送るハロルド(ジム・ブロードベント)のもとに、元同僚の女性(リンダ・バセット)からの手紙が届く。その女性が余命わずかだと知ったハロルドは、彼女が収容された北部のホスピスをめざして歩き出す。

原作はレイチェル・ジョイスのベストセラー小説。英国縦断800㌔の旅を、徒歩で成し遂げようとする主人公の姿を描くロードムービーだ。なぜハロルドは無謀な旅に挑むのか。それを解き明かすキーワードは「信じる心」で、清らかな「光」のイメージが随所にちりばめられているが、宗教的な映画ではない。ハロルドが道中で出会う名もなき人々との交流、彼の痛ましい過去、冷えきった妻(ペネロープ・ウィルトン)との関係など多彩なエピソードを通して、人生の喪失や悔恨、そして再生の物語が展開していく。それらの多くは観客の想像の範囲内に着地するかもしれないが、俳優陣の哀感にじむ演技、美しい丘陵や田園風景をカメラに収めた映像に魅了される一作だ。ヘティ・マクドナルド監督。1時間48分。東京・ヒューマントラストシネマ有楽町、大阪ステーションシティシネマほか。(諭)

ここに注目

ロードムービーの魅力を醸造する要素が詰まっている。ビム・ベンダース監督はあるインタビューでロードムービーを「道は人生の暗喩」と位置づけたが、本作もハロルドの人生の悲しみや後悔、愛が行路とともに表出してくる。そして「暗喩」より、もう少し素直に心に染みこむゴールが用意されている。(坂)

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