「Here」 ©︎ Quetzalcoatl.jpg

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2024.2.02

特選掘り出し!:「Here(ヒア)」/「ゴースト・トロピック」 ドゥボス監督作品、初公開

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

ベルリンやカンヌの国際映画祭で高い評価を受けるベルギーのバス・ドゥボス監督の2作品が日本で初公開される。ヨーロッパの縮図、交差点と言われる多文化、多言語の街ブリュッセルを舞台に、移民など下層社会の人たちの生活の断片を丁寧に切り取った逸品だ。

「Here」は、建設労働者の男が故郷ルーマニアに帰国するか悩み、友人や姉にお別れの贈り物としてスープを作って配る中で、コケの研究者の女性と出会う物語。同僚との親しみにあふれた会話、コケ研究者との穏やかで優しさに満ちた時間がいとおしい。スープを配る行為、森の静寂、人と人が一緒にいること。当たり前に見えるこうした日常がいかに素晴らしいか改めて実感できる。

「ゴースト・トロピック」は、清掃作業員ハディージャが仕事の後の最終電車で寝過ごし、真夜中に多様な人たちと関わり家に帰る話。路上暮らしの生活困窮者やコンビニ店員、警備員らに、ブリュッセルの街の姿とハディージャの内面が投影される。16㍉フィルムの粗い粒子は暗闇の不安や怖さ、寒風の街を効果的に映す。「Here」1時間23分、「ゴースト・トロピック」1時間24分。東京・Bunkamuraル・シネマ渋谷宮下、大阪・シネ・リーブル梅田(9日から)ほか順次公開。(鈴)