「キリング・オブ・ケネス・チェンバレン」 © 2020 KC Productions, LLC. All Rights Reserved

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2023.9.15

この1本:「キリング・オブ・ケネス・チェンバレン」 無実の黒人殺される過程

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

本編が1時間23分というコンパクトな米インディーズ映画である。しかし実際の事件に基づく本作は、その〝時間〟がことさら重い意味を持つ。何の罪もない高齢男性が自宅で目を覚まし、むごたらしく殺害されるまでの経過をほぼリアルタイム進行で映像化した作品だからだ。しかも凶行に及んだのは、市民を守るべき立場の警官なのだ。

ニューヨーク州ホワイトプレーンズの退役軍人ケネス・チェンバレン(フランキー・フェイソン)は、心臓が悪く、双極性障害を患っている。2011年11月19日午前5時22分、ケネスが利用する医療用通報装置が誤って作動し、信号を受信した会社の担当者が地元警察に安否確認を依頼する。それが恐ろしい悲劇の始まりだった。

黒人のケネスが暮らす公営住宅にやってきた3人の白人警官は、玄関を開けるよう告げるが、おびえたケネスはそれを拒否し、「誤作動だった」「緊急の用はない」と説明する。やがてケネスが違法行為をしているのではないかと一方的に疑念を募らせた警官たちは、応援の人員を呼び、おのやハンマーを持ち出して強行突入しようとする。

20年5月にミネアポリスの路上で、白人警官が黒人男性を拘束して死に至らしめたジョージ・フロイド事件の記録映像は日本でも大きな反響を呼んだが、本作はそれ以前の19年に製作された。当初は穏やかだったケネスと警官たちのやり取りが、じわりじわりと緊迫化し、ついには取り返しのつかない惨劇に発展していく様を、現場で録音されていた音声などを手がかりにして克明に再現。そこには警官の一人が発した人種差別的な罵声も記録されていた。

事件の一部始終を目撃する観客は、スチール製のドア1枚を挟んでわき起こる異様なサスペンスに戦慄(せんりつ)する。そして手持ちカメラによる迫真のリアリズムを貫いたデビッド・ミデル監督は、警官の理不尽な暴力のみならず、無力な一市民が被った計り知れない恐怖を伝える。警官や騒ぎを聞きつけた隣人らの怒声、悲鳴が飛び交う終盤、死に際のケネスが絞り出す〝祈り〟の言葉に誰もがいたたまれない気分になるだろう。東京・ヒューマントラストシネマ渋谷、大阪・シネ・リーブル梅田ほか。(諭)

ここに注目

カメラは部屋の中のチェンバレンとドアの前の警官たちをカットバックし、双方が高ぶってゆく様子を刻々と描写する。どちらもさほど広くない。特にドアの前は最初に来た警官3人だけで窮屈なのに、近隣住人が集まり、警官が呼んだ応援要員も来て混乱に拍車をかける。警官3人のうち仲間をなだめる良心的なロッシ(エンリコ・ナターレ)が観客との橋渡し。一方、心身共に不安定で追い詰められるチェンバレンを演じたフェイソンは、屋内で一人芝居。人物配置や空間を活用し、記録の隙間(すきま)を埋めた語り口も巧み。(勝)

技あり

カムリン・ペトラマーレ撮影監督は、照明の変化でチェンバレン最期の朝を追う。冒頭、警官に起こされた時、彼はベッドにいる。床の白熱光スタンドと脇机のスタンドが、くすんだ壁を照らす。立ってドアののぞき穴から警官を見る時は、顔の正面光はなく、ヒゲを光らせ、背景から顔を浮かす。じれた警官がドアをたたき始めると、部屋を歩き回る彼を広角レンズのあおりめのバストアップで追い、背景の天井の動きで混乱した心象を表現。終盤のドアを壊してなだれ込む警官の蛮行はカーテン越しの朝の光で見せる。チェンバレンが殺されるのを「ドラマチック」に光で描いた。(渡)

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