「まなみ100%」 ©「まなみ100%」製作委員会

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2023.9.29

「まなみ100%」 平凡な日常 一瞬のきらめき

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

いろんな意味で、取るに足りない話なのだ。片思いの女性に10年間フラれ続け、相手が別の男と結婚してしまう――というだけ。主人公の恋心に人生を懸けるほどの切実さはないし、2人に劇的展開も訪れない。それでも、踏ん切りのつけられない感情を引きずる甘痛い感覚は妙にリアルで、胸をうずかせるのである。

高校生のボク(青木柚)は、入部した体操部で一緒になったまなみ(中村守里)に一目ぼれ。思いを伝え続けるものの関係は友だち以上には進まない。高校卒業後も時折まなみと再会しては求婚し、フラれるの繰り返し。高校時代の友人や先輩との挿話を交え、その歳月が淡々とつづられる。

ボクは要領が良く、群れずに我が道を行くタイプ。挫折やトラウマ、世の中への怒りといった人生の深刻さとは縁遠そう。そこそこいい子の思春期とその名残を追ったぬるい青春映画、と言えなくもない。ただ、はたから見れば退屈な10年も、当人にとってはかけがえのない日々だ。おそらくは川北ゆめき監督が自身を投影したボクが、その日々を慈しみつつ決別しようとする視線に共感の道がある。いまおかしんじの脚本を得て、平凡な日常の一瞬のきらめきを捉えた感性がみずみずしい。1時間41分。東京・新宿シネマカリテ、大阪・シネ・リーブル梅田ほか。(勝)