毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2023.8.18
特選掘り出し!:「ミンナのウタ」 さえ渡る心霊描写
ひと昔前、某ヒット曲のレコードに「幽霊の声が収録されている」という都市伝説があった。その真偽はともかく、映画においても奇怪な〝音〟や〝声〟は恐怖表現の重要な要素だ。かつて「呪怨(じゅおん)」で怨霊(おんりょう)のおどろおどろしいうめき声を発明した清水崇監督がダンス&ボーカルグループ「GENERATIONS」と組んだ本作は、古いカセットテープを発端とする本格的な〝音声ホラー〟だ。
ラジオ番組のパーソナリティーを務めるGENERATIONSの小森隼(本人)が謎の失踪を遂げた。他のメンバーにも異変が相次ぐ中、マネジャーの凜(早見あかり)と探偵の権田(マキタスポーツ)は、30年前にカセットテープをラジオ局に送った少女の素性を探っていく。
GENERATIONSの面々が実名で出演し、彼らが呪いのメロディーをめぐる怪事件に巻き込まれていくという物語。リハーサル中のスタジオ、夜道の自動販売機などに少女の幽霊を出現させ、不条理な時空のゆがみを映像化した清水監督の心霊描写がさえ渡る。アイドル映画と侮って見たら、背筋がぞくりとすること間違いなし。視覚と聴覚、そして想像力を絶えず刺激する映像世界の密度は、近年のJホラーで屈指の出来ばえだ。1時間42分。東京・丸の内ピカデリー、大阪・あべのアポロシネマほかで公開中。(諭)