毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2024.12.13
「お坊さまと鉄砲」 穏やかに問いかける民主主義の意義と矛盾
2006年、ブータン国王が退位して民主主義体制に移行すると宣言。初めての普通選挙が行われることになった。政府は国民を啓発し選挙の仕組みを伝えるため、模擬選挙を計画する。山中のウラ村にも政府の選挙委員がやってきた。その話を聞いた高僧は、弟子の僧侶タシ(タンディン・ワンチュク)に「銃を2丁手に入れてくれ」と頼む。一方、お宝があると聞きつけた銃収集家のロンが村にやってきた。
平等で平和な社会を作るための金科玉条とされる民主主義も、王様の親政の下で十分幸せなウラ村の人々にはありがた迷惑。中央からやってきた役人たちが民主主義の価値を説いても空回りするばかり。一方、歴史的価値のある銃を見つけたロンは、持ち主に大金を積むのだが、まさに猫に小判。かみ合わないやりとりが笑いを誘い、押しつけの民主主義や貨幣経済の意義と矛盾を穏やかに問いかける。
「ブータン 山の教室」のパオ・チョニン・ドルジ監督の第2作。ブータンではいまだ、立憲君主制への移行期にあるという。1時間52分。東京・ヒューマントラストシネマ有楽町、大阪・テアトル梅田ほか。(勝)
ここに注目
近年、民主化へと転換したブータンでなければ撮れなかった、ウイットに富んだ作品。豊かな自然と青々とした空のもと右往左往する庶民の姿を、一貫してユーモラスかつ穏やかなトーンで映し出した。選挙をめぐる話題や論争がクローズアップされた本年、その根源を考察する意味でも貴重な一本だ。(鈴)