毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
「ノー・アザー・ランド 故郷は他にない」Ⓒ2024 ANTIPODE FILMS. YABAYAY MEDIA
2025.2.21
時代の目:「ノー・アザー・ランド 故郷は他にない」 相互理解と共闘の可能性
ヨルダン川西岸のパレスチナ人居住区、マサーフェル・ヤッタで起きている、イスラエル軍によるパレスチナ人住民への弾圧を記録したドキュメンタリー。イスラエルが軍事訓練場にするため住民の強制立ち退きを進めている。監督はパレスチナ、イスラエル2人ずつ。このうちバーセル・アドラー監督は同地で生まれ育ち、活動家の両親と抵抗運動を続けてきた。イスラエル人のユバル・アブラハーム監督はイスラエル軍の占領を取材するために同地を訪れ、アドラー監督と4年にわたって抵抗の活動を記録。アドラー監督の両親らが記録した数十年分の映像と合わせ、迫害の歴史と現在を示す。
映像は衝撃的だ。ブルドーザーで住居を壊された住民はそれでも立ち退かず、洞窟で生活して抵抗を続ける。激しく抗議する住民を兵士が威圧し、果ては発砲する場面まで収めている。対立と憎悪の深さを思わずにいられない。だが、エルサレムに帰るアブラハーム監督と弾圧下の日常を生きるアドラー監督の対話には、相互理解と共闘の可能性がわずかながら示される。ベルリン国際映画祭で最優秀ドキュメンタリー賞。米国公開は難航したが、アカデミー賞で候補入り。1時間35分。東京・TOHOシネマズシャンテ、大阪ステーションシティシネマほか。(勝)