「Pearl パール」 ©2022 ORIGIN PICTURE SHOW LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

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2023.7.07

「Pearl パール」

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

1918年、米テキサス州。ヨーロッパに出征した夫の帰還を待つ農場の娘パール(ミア・ゴス)は、ミュージカル女優になる空想に浸っていた。しかし彼女の現実は厳格な母親に支配され、車椅子の父親の看護にも追われている。そんなある日、町の映画館で映写技師と出会ったことから、パールの危うい心の均衡が崩壊していく。

米映画会社A24が製作するホラー3部作の2作目で、昨年公開された「X エックス」の前日譚(たん)となる恐怖劇。荒々しいバイオレンス映画だった前作から一転、ハリウッド黄金期のメロドラマや「オズの魔法使」などのファンタジーをほうふつとさせる様式で、夢と現実のはざまで引き裂かれる主人公の暴走を映し出す。テクニカラー風の鮮やかな色彩が優雅なムードを醸し出す一方、惨劇が繰り広げられる後半は毒々しさを増幅。前作から続投したタイ・ウェスト監督の多才ぶり、悲しみと狂気が表裏一体になったミア・ゴスの憑依(ひょうい)演技が素晴らしく、ラストシーンのパールのものすごい〝顔〟が脳裏に焼きついて離れない。1時間42分。東京・TOHOシネマズ日本橋、大阪・TOHOシネマズ梅田ほか。(諭)

異論あり

田舎で抑圧されて生きてきたパールが、家族への反発や外の世界へ憧れを抱く気持ちは理解できる。だが、周囲の人を殺しまくる理由としては弱すぎるように思う。「彼女はシリアルキラーだから」では新鮮味にも説得力にも欠けるのではないか。パールの貼り付けたような笑顔は不気味で印象的だった。(倉)