「リッチランド」 © 2023 KOMSOMOL FILMS LLC

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2024.7.05

時代の目:「リッチランド」 核と共存の町、変わりうるか

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

米ワシントン州南部の町リッチランド。1942年からのマンハッタン計画で、核燃料生産拠点となった「ハンフォード・サイト」で働く人々と家族のために作られた。長崎投下の原子爆弾「ファットマン」のプルトニウムはここで精製された。冷戦時は核兵器の原料生成も担い、稼働終了後は国立歴史公園に指定されている。

地元の高校などいたる所に見られる〝キノコ雲〟は、町のトレードマークでありアイデンティティーにもなっていて、町民は「原爆が戦争を終結させた」と誇りを持って語る。一方で、放射能汚染と共に暮らす中で「川の魚は食べない」という人も。映画「オッペンハイマー」が政治の思惑と科学者の苦悩を描いたのに対し、相反する思想と状態を受け入れた多様な市民の声を提示した。

アイリーン・ルスティック監督は、原爆の暴力や罪と共存する、町の歴史や人々の感情を浮き彫りにした。終盤で高校生が今の時代と自分たちを素直に語る姿に、その先の望みを見いだそうとしている。アメリカの小さな町が持つ政治や社会の特殊性を掘り下げ、凝り固まった思考から一歩踏み出すことを促している。1時間33分。東京・シアター・イメージフォーラム。大阪・第七藝術劇場(20日から)など全国で順次公開。(鈴)

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