「ヨーロッパ新世紀」 ©Mobra Films-Why Not Productions-FilmGate Films-Film I Vest-France 3 Cinema 2022.

「ヨーロッパ新世紀」 ©Mobra Films-Why Not Productions-FilmGate Films-Film I Vest-France 3 Cinema 2022.

2023.10.13

時代の目:「ヨーロッパ新世紀」 分断された世界の縮図

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

「4ヶ月、3週と2日」でカンヌ国際映画祭パルムドールを受賞したルーマニアのクリスティアン・ムンジウ監督の新作。異国の出稼ぎ先で暴力沙汰を起こしたマティアスがトランシルバニア地方の村に帰ってくる。しかし妻は冷たく、幼い息子は森で何かを目撃して口がきけなくなっていた。マティアスは元恋人シーラに心の安らぎを求めるが、彼女が営むパン工場で問題が発生し……。

舞台となる寒村では多様なルーツの住民が暮らし、ルーマニア語、ハンガリー語、ドイツ語、英語などが飛び交う。この村は経済的に貧しく、働き手はよりよい賃金を求めて西ヨーロッパへ出稼ぎに行っている。

ムンジウ監督は、パン工場がアジア系労働者を雇ったことを発端とする対立が危険な紛争に発展する様を描く。集会所に詰めかけた地元民がよそ者への差別意識や劣等感をあらわにし、ありったけの不満をぶちまける様を17分の長回しショットで映像化。グローバル化のゆがみ、貧富の格差などの問題に根ざしたその光景は、分断された世界の縮図のよう。

さらにムンジウ監督は、トランシルバニア地方の風習や野生動物がすむ自然をカメラに収めた。荒々しく不穏なムードに満ち、えたいの知れないスリルがほとばしる一作である。2時間7分。東京・ユーロスペース、大阪・第七藝術劇場ほか。(諭)

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