「西湖畔に生きる」

「西湖畔に生きる」©Hangzhou Enlightenment Films

2024.9.27

「西湖畔に生きる」 際立つ人間の欲望やもろさ

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

中国杭州市の西湖。タイホア(ジアン・チンチン)は夫が家を出て以来、この地の名産である龍井茶の茶摘みをし、息子のムーリエン(ウー・レイ)を育て上げた。ある日、茶畑の主人と懇意になったことで彼の母親の怒りを買い、村を出ることに。仕事を失った彼女は、マルチ商法の闇へのみ込まれてしまう。

監督は、絵巻物のような映像で市井の人々の暮らしを描いた「春江水暖~しゅんこうすいだん」のグー・シャオガン。川から山へと舞台を変え、仏教故事にインスパイアされた作品を完成させた。変わりゆく人間の営みを、変わらずに見つめ続けているかのような景色を流麗なカメラワークで描き出す手法は前作通り。本作では自立や幸福を求めた末に狂気の淵に立ってしまった母親の物語を、まったく異なる映画のように組み合わせ、新しい境地を開拓している。マルチ商法の巧みな手口を明かす苛烈なパートと、山水画を思わせる映像との対比によって、人間の欲望やもろさが際立った。壊れゆく母と、母を救うために覚悟を決める息子、2人の芝居も見応えがある。1時間58分。東京・新宿シネマカリテ、大阪・テアトル梅田ほか。(細)

ここに注目

マルチ商法や洗脳場面の描写に面食らった。「春江水暖」の高評価に安住せず、山水画の思想を模索しながら、エンタメや商業性をやすやすと加味させる探求心に目を見張ったからだ。表現手法やジャンル分けなど既存のくくりにとらわれない、グー監督の発想と演出は鋭さを増している。(鈴)

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