「世界が引き裂かれる時」

「世界が引き裂かれる時」

2023.6.16

「世界が引き裂かれる時」

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

ロシアがクリミアを併合した直後の2014年7月。ロシアとの国境にほど近いウクライナ東部で暮らす妊婦イルカ(オクサナ・チャルカシナ)と夫トリクの自宅が、砲弾の誤射で半壊してしまう。修復作業に追われる中、間近でマレーシア航空機撃墜事件が発生し、夫婦を取り巻く状況は緊迫化していく。

ウクライナのマリナ・エル・ゴルバチ監督が撮り上げた戦時下のドラマ。ウクライナ人夫婦の日常は、現地を支配する親ロシア派勢力の傭兵(ようへい)らに脅かされている。ゴルバチ監督はその不条理の極みというべき現実を、緩やかなパンショットを多用した長回しでカメラに収め、画面のフレーム外からひたひたと迫ってくる暴力の影を暗示する。事態があまりにも複雑ゆえに識者の解説がほしくなる作品だが、夫婦の家にぽっかり開いた巨大な〝穴〟を象徴的に捉えた映像の奥行き、緊迫感に圧倒されずにいられない。むなしい争いを繰り返す男たちとは全く別の原理で行動する、身重の女性に焦点を当てたことにも独自の視点が感じられる。幕切れも衝撃的だ。1時間40分。東京・シアター・イメージフォーラム、大阪・第七藝術劇場ほか。(諭)

ここに注目

マレーシア航空機事件は、当初親露派がウクライナ軍輸送機を撃墜したと声明を出したが、民間機と判明するとウクライナによる撃墜と主張を翻した。プーチン露大統領は戦闘地域の民間機飛行を禁止しなかったウクライナを非難。本作は混乱する親・反ロシア両派の対立と愚かさを辛らつに批判する。(鈴)

この記事の写真を見る

  •  「世界が引き裂かれる時」
さらに写真を見る(合計1枚)