「シチリア・サマー」© 2023 IBLAFILM srl

「シチリア・サマー」© 2023 IBLAFILM srl

2023.11.24

「シチリア・サマー」 花火のように、はかなくも散ったラブストーリー

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

1982年、シチリア島。16歳のニーノ(ガブリエーレ・ピッツーロ)と17歳のジャンニ(サムエーレ・セグレート)はバイク同士で衝突したことで知り合いになる。大家族のもとで育ったニーノと孤独を抱えたジャンニ。まるで正反対の2人はひかれ合っていくが、許される恋ではなかった。

絶対に避けられなかった事故のようでもあり、運命としか思えない2人の少年の出会いから、乾いた銃声が響く最期の瞬間までを追いかけたラブストーリー。イタリアで同性愛者らの権利を訴える非営利団体が生まれるきっかけとなった実話を基にしているという。彼らが暮らす町には陽光が降り注ぎ、澄み渡った空ときれいな水辺がある。2人を少しずつ追いつめる周囲や家族の同調圧力、偏見があらわになるにつれて、町の美しさが悲しみを帯びた風景に反転していくかのようだ。劇中で何度か打ち上げられる花火に、スパークする思いと、はかなくも散った関係が重なっている。監督は俳優として活躍しているジュゼッペ・フィオレッロ。2時間14分。東京・ヒューマントラストシネマ有楽町、大阪ステーションシティシネマほか。(細)

ここに注目

重く切ないこの映像詩から、アメリカンニューシネマの傑作「イージー・ライダー」(1969年)を連想した。バイクとハーレーダビッドソンなど差異は多いが、自由を希求する「異端者」に対する差別と偏見、そして暴力のおぞましさがリンクする。(坂)

この記事の写真を見る

  • 「シチリア・サマー」© 2023 IBLAFILM srl
さらに写真を見る(合計1枚)