「シック・オブ・マイセルフ」

「シック・オブ・マイセルフ」

2023.10.20

時代の目:「シック・オブ・マイセルフ」 破滅へ向かう〝注目されたい〟

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

世間の注目を集めたい。自分の存在価値を認められたい。そんなSNS時代の〝欲求〟をテーマにした作品はすでにいくつもあるが、これには心底仰天した。ただし刺激の強い映画が苦手な人にはお勧めできない衝撃作、と最初に警告しておく。

主人公はノルウェー・オスロの若い女性シグネ(クリスティン・クヤトゥ・ソープ)。偶然バイト先のカフェで犬にかまれた血まみれの女性を介抱した彼女が、人々の視線を浴びた快感を忘れられず、常軌を逸した言動を重ねていく姿を映し出す。

芸術家の恋人への対抗心にも駆られたシグネの「注目されたい」願望は道徳上の一線を越え、ついには原因不明の皮膚病を引き起こす薬物に手を染める。悲劇の主人公としてメディアの取材を受ける一方、皮膚のただれ、顔面の損傷はどんどん悪化。ゆがんだ嫉妬心やエゴが、彼女自身を破滅的な事態へ追いやっていく。

ナルシシズムやマゾヒズム、虚言癖、依存症などの病理を扱った本作はサイコスリラーであり、コメディーとホラーの境界線を際どく行き来する。新鋭監督クリストファー・ボルグリの語り口は緩急巧みで、社会風刺は痛烈の極み。悪夢のような映像世界に生々しい現実感を吹き込んだ特殊メークもすごい。1時間37分。東京・新宿武蔵野館、大阪・シネ・リーブル梅田ほかで公開中。(諭)