毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2024.11.01
特選掘り出し!:「スパイダー/増殖」 サスペンスとショックの連打
フランス映画には大勢の移民が住む郊外の団地を舞台に、差別や暴力などの問題を描く〝バンリューもの〟というジャンルがある。「憎しみ」(1995年)や「レ・ミゼラブル」(2019年)がその代表作だが、意外な新作が届いた。何と動物パニック映画だ!
スニーカーの転売を生業にする青年カレブ(テオ・クリスティーヌ)は、爬虫(はちゅう)類や昆虫の愛好家。そんな彼が入手した珍種のクモが仮置きの靴箱から逃げ出し、恐ろしい惨劇を引き起こす。
異常な繁殖力を誇る毒グモが団地に巣を張り、住人を攻撃する。新人のセバスチャン・バニセック監督は、風呂場や狭い通路といった空間を巧みに活用し、息もつかせぬサスペンスとショックシーンを連打。クモ映画には「アラクノフォビア」(90年)などの良作があるが、本作のスリルはそれらを凌駕(りょうが)する。視覚効果とわかっていても、巨大化したクモが群れで迫ってくる描写は「うげーっ」となる。
自らもパリ郊外育ちの監督は、リアルな人物描写にも持ち味を発揮。必死のサバイバルを繰り広げる主人公と仲間たちの友情、団地愛を盛り込んだ。ちなみに他のバンリューものと同様、警察権力はまったく頼りになりません。1時間46分。東京・新宿武蔵野館、大阪・テアトル梅田ほか。(諭)