「サンセット・サンライズ」

「サンセット・サンライズ」Ⓒ楡周平/講談社 Ⓒ2024「サンセット・サンライズ」製作委員会

2025.1.24

「サンセット・サンライズ」 ユーモアに包まれた鋭い社会批評

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

町内の空き家対策担当に指名された南三陸・宇田浜町役場の百香(井上真央)は、手始めに持ち家の借り手をインターネットで募集する。すると東京の釣り好きの会社員、晋作(菅田将暉)が、広い、安い、海も近いと飛びついて押しかけてきた。

楡周平の小説を宮藤官九郎が脚色し、監督は岸善幸。時はコロナ禍で、感染を警戒する百香から自主隔離を命じられた晋作が我慢できずにコソコソと釣りに出かけたり、百香ファンの独身男性たちが晋作との間柄にやきもきしたりといったドタバタで笑わせながら、鋭い社会批評を持ち込んだところが秀逸。コロナ禍、移住、地方と都会、東日本大震災と社会問題をてんこ盛り。といって堅苦しさを感じさせず、きれい事にも終わらせない。震災の深い傷を抱えた百香と、〝よそ者〟晋作との恋愛模様も、すんなりとは進まない。

許容範囲ギリギリを突く宮藤の脚本を、岸監督がしなやかにキャッチ、菅田が好演。晋作の田舎暮らしはいささか理想的に過ぎるとはいえ、楽しい佳品。2時間19分。東京・TOHOシネマズ日比谷、大阪ステーションシティシネマほかで公開中。(勝)

ここに注目

背景になっているのは、震災とコロナ禍、都会と地方の格差。分断やコミュニケーションの問題が〝東北あるある〟なユーモアたっぷりに描かれ、岸監督とクドカンがタッグを組んだからこその化学反応が感じられた。俳優陣では、地元の人にしか見えない池脇千鶴、三宅健のキャスティングにうなる。(細)

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