「スイート・マイホーム」 ©2023「スイート・マイホーム」製作委員会©神津凛⼦/講談社

「スイート・マイホーム」 ©2023「スイート・マイホーム」製作委員会©神津凛⼦/講談社

2023.9.01

「スイート・マイホーム」

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

長野県の寒冷地。スポーツインストラクターの賢二(窪田正孝)は、妻ひとみ(蓮佛美沙子)と幼い娘のために一軒家を購入。地下の巨大暖房設備で家全体を温める「まほうの家」は理想的な物件だった。しかし、マイホームでの生活が始まると、脅迫メールや変死事件など不可解な出来事が次々と起こる。

神津凛子の同名小説の映画化。新築の家に不安が広がっていく前半は、ホラーとミステリーが程よい具合。俳優の斎藤工が「齊藤工」名義で監督しているが、長編デビュー作「blank13」以来、一作ごとに人間ドラマの奥行きを広げている。本作でも明るい色調の中に不穏さを忍ばせる演出は見事。注目すべきは俳優陣で、「春に散る」でストイックなボクサー役に没入した窪田が、家族愛豊かな一方で全く別の顔も持つ多面的な人物を演じて物語をけん引。蓮佛は何かに取りつかれたような妻を的確に表現した。さらに、住宅会社社員役の奈緒がにこやかな笑顔とともに新境地を見せる。ただ、謎解きや究極の怖さを求める人には物足りないかも。1時間53分。東京・TOHOシネマズ日比谷、大阪・TOHOシネマズ梅田ほか。(鈴)

ここに注目

霊的な怪異を描くホラーなのか、それとも人間の心の闇に起因するサイコスリラーか、判然としないまま映画は終盤まで進行していく。その長く曖昧な時間帯が間延びせず、緊張感が持続しているのは、一つ一つのショットがきちんと撮られているからだろう。新築の家が恐怖の舞台となるのも新味。(諭)