毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2024.4.26
「システム・クラッシャー」 衝撃的かつ繊細な情感が息づく
ベニー(ヘレナ・ツェンゲル)は幼少期のトラウマを抱え、ふとしたことで感情を制御できなくなる9歳の少女。行く先々で暴れて問題を引き起こす彼女は、施設をたらい回しにされている。ソーシャルワーカーらが対処に困るなか、非行少年の更生を援助してきたミヒャ(アルブレヒト・シュッフ)が、ある意外な隔離療法を提案する。
聞き慣れない題名は、あまりにも攻撃的で福祉施設の手に負えない子供を指す言葉。可愛らしい外見からは想像もできないほど、冒頭から荒れ狂うベニーの豹変(ひょうへん)ぶりがすさまじい。綿密なリサーチに基づいてこの初長編作に取り組んだノラ・フィングシャイト監督は、母親の愛を求めるベニーの切なる内面に触れ、衝撃的かつ繊細な情感が息づくドラマに仕上げた。少女という存在を象徴するピンクの配色も効果的。ドイツの福祉システムの有りようやそこで働く職員たちの葛藤にも目を向け、映画に豊かな奥行きを与えている。2019年のベルリン国際映画祭でアルフレッド・バウアー賞を受賞した。2時間5分。東京・シアター・イメージフォーラム、大阪・テアトル梅田(5月3日から)ほか。(諭)
ここに注目
少女の根底に愛の希求があることは理解できるが、ここまで手がつけられない子供を目の前に、大人たちはどうやって最適解を見つければいいのだろう。見る者をそんな途方に暮れるような気持ちにさせた時点で、監督の試みは成功している。驚くほどいくつもの表情を見せたツェンゲルの演技力にもひれ伏した。(細)