「チャイコフスキーの妻」

「チャイコフスキーの妻」©HYPE FILM - KINOPRIME - LOGICAL PICTURES – CHARADES PRODUCTIONS – BORD CADRE FILMS – ARTE FRANCE CINEMA.

2024.9.06

「チャイコフスキーの妻」 拒絶されても愛することをやめない女性の絶望と狂気

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

19世紀後半のロシア。地方貴族出身のアントニーナ(アリョーナ・ミハイロワ)は、同性愛者だとうわさされる作曲家のチャイコフスキー(オーディン・ランド・ビロン)に熱烈な恋文を送り、結婚へとこぎ着ける。けれども、女性への愛情を抱いたことがないチャイコフスキーが世間体のために決断した結婚は早々に破綻。心も体も受け入れてもらえないアントニーナは、精神のバランスを崩していく。

チャイコフスキーのセクシュアリティーは、ロシアではタブー視されていたという。舞台の演出も手がけ、「LETO レト」などで知られるキリル・セレブレンニコフ監督は、残されている日記や文書、書簡などをもとにしながら、いわゆる伝記映画や文芸映画の枠を超え、夫婦の関係を新たな物語として描き出した。どれだけ拒絶されても愛することをやめないアントニーナは〝世紀の悪妻〟ではなく、男性社会のなかで自らの欲望を貫き通そうと格闘した女性なのではないか。捨て身の愛の行方が、フェルメールの絵画のような光と、現実と虚構を織り交ぜた映像で描かれている。2時間23分。東京・新宿武蔵野館、大阪・テアトル梅田ほか。(細)

ここに注目

ある女性の苦悩と絶望、狂気を描いた一級のメロドラマ。現実と虚構が共存する冒頭から心をわしづかみにされた。池のショットや血塗られたピアノなど色調や陰影に富んだショッキングな映像美も重厚。誰にも受け入れられず蔑視されながら愛を貫くアントニーナを、ミハイロワが体現。情感が圧巻だ。(鈴)

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