17世紀半ば、朝鮮王朝第16代国王、仁祖（ユ・ヘジン）の長男である昭顕世子が、長らく人質として抑留されていた清から帰国した。しかしある夜、体調不良を訴えていた世子が急死。その場に居合わせた若い盲目の鍼術（しんじゅつ）師ギョンス（リュ・ジュンヨル）は、宮廷内の巨大な陰謀の渦中に巻き込まれていく。

主人公のギョンスは病身の幼い弟を養っており、鍼術の腕を買われて宮中入りした苦労人。そんな彼を〝盲目の目撃者〟に仕立て、「仁祖実録」に記された世子の怪死をめぐる歴史上のミステリーを映像化した。ある秘密を抱えて生きるギョンスの人物造形、清との外交関係や国王の世継ぎ問題などの火種がくすぶる宮廷の人間模様、治療用の〝鍼（はり）〟を小道具として活用した巧みなサスペンス演出が緊迫感を高める。韓国映画ファンにはおなじみの名バイプレーヤー、ユ・ヘジンの狂気をにじませた演技も強烈。監督のアン・テジンは新人だが、本国では興行的な成功を収め、大鐘賞や青龍賞などの主要な映画賞でも数多くの受賞を果たした。1時間58分。東京・ヒューマントラストシネマ有楽町、大阪・シネ・リーブル梅田ほか。（諭）

ここに注目

「暗くなるまで待って」や「座頭市」シリーズ、最近では「見えない目撃者」など目が不自由な主人公が活躍する作品は数知れず。本作は鍼、夜の暗闇、権謀術数とシャープな仕掛けでハンパない緊迫感。広大とはいえ宮廷内の限られた空間に集約した展開も、物語の吸引力を倍増させている。（鈴）