「ナチスに仕掛けたチェスゲーム」 © 2021 WALKER+WORM FILM, DOR FILM, STUDIOCANAL FILM, ARD DEGETO, BAYERISCHER RUNDFUNK

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2023.7.21

「ナチスに仕掛けたチェスゲーム」

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

オーストリアの作家シュテファン・ツバイクが晩年に発表した小説「チェスの話」の映画化である。オーストリアがドイツに併合され、ウィーンの公証人バルトーク(オリバー・マスッチ)がゲシュタポに連行される。ナチスへの協力を拒み、ホテルの一室に監禁されたバルトークは、偶然入手したチェスのルール本を読み込むことで正気を保とうとするが……。

この密室劇はユニークな構造を持つ。妻とともにアメリカ行きの豪華客船に乗ったバルトークが、そこでチェスの世界王者との対決に臨む姿が並行して描かれる。ナチスへの抵抗をテーマにした歴史ものは数あれど、これほどカフカ的な不条理感が濃厚な映画は珍しい。ホテルで絶望的な孤独の闇にとらわれたバルトークが、現実と妄想の境目を失っていく極限心理を映像化。一方、不穏なムードに覆われた豪華客船のパートは、まるであの世とこの世の中間地点のように思えてくる。二つのエピソードを巧みに結びつけたフィリップ・シュテルツェル監督の重厚かつサスペンスフルな語り口が光る。1時間52分。東京・シネマート新宿、大阪・シネマート心斎橋ほか。(諭)

ここに注目
ナチスの要求を厳然と拒否していたバルトークが、軟禁生活で尊厳を奪われ追い込まれていく姿は見ていてつらく、恐ろしい。チェスに強くなった理由に悲しみを覚えるが、世界王者との対決シーンは緊迫感があり、バルトークの心の揺らぎに取り込まれていくような臨場感を味わうことができた。(倉)

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