「ニューヨーク・オールド・アパートメント」 © 2020 - Dschoint Ventschr Filmproduktion  SRF Schweizer Radio und Fernsehen  blue

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2024.1.12

「ニューヨーク・オールド・アパートメント」 移民を取り巻く過酷な社会で生き抜くたくましさ

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

母親ラファエラ(マガリ・ソリエル)とともにニューヨークの片隅で暮らす双子の兄弟ポールとティト(アドリアーノ&マルチェロ・デュラン)はペルー出身の不法移民。ウエートレスの仕事に疲れたラファエラは、店の客で作家の口車に乗せられて新たな事業を始める。一方、ポールとティトは語学学校で出会ったクロアチア人美女に憧れを抱く。

移民の母子が幾多の苦難を経てアメリカンドリームをたぐり寄せる話かと思いきや、そうではない。スイス出身の新人監督マーク・ウィルキンスは、夢や希望をファンタジックにうたい上げず、異邦人の視点で移民を取り巻く現実を描いた。透明人間のように見過ごされ、時には理不尽な仕打ちに遭う母子の日常は厳しく、鑑賞中につらい気分にさせられることもしばしば。ところが好奇心をたたえた瞳を輝かせ、恋やセックスに興味津々の年ごろの兄弟は実に親しみやすいキャラクターで、どこか楽天的な彼らの活力に胸が弾みもする。ニューヨークの各所でロケ撮影を行った映像の臨場感も、映画にリアリティーを吹き込んでいる。1時間38分。東京・シネマカリテ新宿、大阪・シネ・リーブル梅田ほか。(諭)

ここに注目

現実の厳しさ非情さをたっぷり注ぎ込んだ物語は、移民を取り巻く今日の社会の過酷さを映し出しているからか、口当たりの良いハリウッド製とはひと味もふた味も違う。しかしだからこそ、逆境の中で生き抜く母子のたくましさが際立つ。不思議と力をもらえる一作。(勝)

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