ひとしねま

2023.11.24

私と映画館:ひたすら見ていた日々

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

敗戦後、流入制限していた東京へ、新制早稲田大に入れたので引き揚げ列車でやってきた。陸海軍の学校から配分された同級生もいた頃だ。授業が終わると手近な新宿に行く。ご愛顧は「最高の名画 最低の料金」の日活名画座。現丸井ビル脇の階段で5階まで上がる。和田誠の「日活名画座ポスター集」では入場料は40円だが、30円だった。映画に飽きると「元祖アイドル」明日待子のムーランルージュ新宿座に行く。木曜に出し物が替わり、注意していないと同じ出し物を2度見せられる。

住まいは代田橋辺り、夜は映画館が多い笹塚まで歩く。岩波写真文庫「日本の映画」に笹塚パール座の看板があり、「酔いどれ二刀流」「血盟八剣士」「母恋人形」とある。3本立てで入れ替えなしだが、1本終わると客が入れ替わる。モタモタしていると座れない。級友でご近所の篠田正浩に、素早く席を取る方法を教わった。終わると気が向けば永福町地球座へ。同郷同級の馬田智夫がバイトに夜警まで引き受け、映写室脇の小部屋で暮らしていた。最終回がハネると、床に水を流す「バタンバタン」という掃除を手伝って1日が終わる。美術史専修だが、演劇専修と授業が一緒なことが多く、篠田や村野鉄太郎に和田勉ら、声の大きい監督志望のやつらに乗せられ「我らが行く手は窮まり知らず」と錯覚し、映画ばかり見ていた。(映画技術史研究家・渡辺浩)

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