毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
「逃走」©︎「逃走」制作プロジェクト 2025
2025.3.14
「逃走」 問い続けた重要指名手配犯・桐島聡の内面
連続企業爆破事件を起こした東アジア反日武装戦線「さそり」の元メンバー桐島聡(古舘寛治、杉田雷麟)は、重要指名手配され逃亡生活に入る。日雇いの仕事を転々とした後、〝内田洋〟という偽名を使い、工務店に住み込みで働き始めた。
実際の事件から約49年後、2024年1月に末期がんで死亡する間際に本名を明かした、桐島をモデルにした。桐島の存在が発覚した2日後から脚本を執筆し、監督したのは元日本赤軍メンバーで「REVOLUTION+1 」の足立正生。桐島と接点のあった人物、銭湯やスナックなど身辺をリサーチし、友人や知人、家族らと一切連絡を取らずに逃げ続けた桐島の内面に分け入り、その苦悩と決意に迫ろうと試みた。生真面目で一本気、同僚らにもやさしい人物として桐島を再現。問い続けたのは、桐島がなぜ最後に本名を名乗ったか。若き桐島を演じた杉田が古舘と対話するシーンなどをはさみ込み、桐島にとって逃げ続けることが革命への確信の証しで、逃げきることが闘争の帰結だったのでは、との仮説も提示した。1時間54分。東京・ユーロスペースほか。大阪・第七藝術劇場(4月5日から)など全国でも順次公開。(鈴)
ここに注目
手配写真に過激派として最後まで残っていた、長髪眼鏡の男が名乗り出たというニュースに驚いた。桐島の逃亡生活を、足立監督は同志的な視点から考察した。セリフのほとんどは独白と自問自答。社会との接触を断った革命家の目からたどった、日本の半世紀でもある。(勝)