「またヴィンセントは襲われる」 ©2023 - Capricci Production - Bobi Lux - GapBusters - ARTE France Cinéma - Auvergne-Rhône-Alpes Cinema – RTBF.jpg

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2024.5.10

「またヴィンセントは襲われる」 現実社会が行き着く果てを示す

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

デザイナーのヴィンセント(カリム・ルクルー)はある日、職場のインターンに突然パソコンで殴られた。同僚と話をしていると、ペンで手をめった刺しにされる。いずれも理由も前触れもなく、相手は襲撃の間の記憶がない。以来、目が合っただけの人から襲われるようになり、危険を避けるため田舎の一軒家に避難した。やがて同じ境遇は一人ではないことが分かり、各地で暴力事件が多発する。

突如凶暴化し意識のない相手に襲われるヴィンセントの状況は、不条理の極み。おびえて逃げる姿は、まるでゾンビ映画だ。ただし「なぜ?」「どうしてこうなった?」への答えはない。暴力がまん延する現実社会が行き着く果てを示す、社会派ホラーとして上出来だ。

しかもこのフランス映画、とぼけたおかしさを漂わせてもいる。ヴィンセントは逃避行のさなかで出会ったマルゴーと恋に落ちる。凶暴化するのはマルゴーも同じなのに。忠義な飼い犬が、危険な相手の接近を知らせてくれる。硬派な問題提起とシュールな脱力描写が同居して、独特の味わい。ステファン・カスタン監督。1時間55分。東京・新宿武蔵野館、大阪・テアトル梅田ほか。(勝)

異論あり

設定系の映画だけに、主人公が濃い色のサングラスをかけて他人と視線が合わないように試みるなど、さまざまな可能性を潰すシーンが欲しかった。ただ、目が合うだけで襲われるという理不尽な暴力が紛争やテロがやまない現代社会のメタファーとして利いており、絶望の中にも愛とユーモアがある。(光)

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