「オオカミの家」 ©Diluvio & Globo Rojo Films, 2018

「オオカミの家」 ©Diluvio & Globo Rojo Films, 2018

2023.8.25

「オオカミの家」

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

チリにあるドイツ人コミュニティーから逃げ出した少女マリアが、森の中の一軒家に逃げ込んで、2頭の豚と暮らし始める。ペドロとアナと名前を付けて世話をするうちに豚は人間に姿を変え、家の外には彼女を追うオオカミが迫る。

チリ製のコマ撮りアニメーションによる伝奇ファンタジー。悪夢のような物語もさることながら、奇想天外な製作手法にびっくり。一コマごとに撮影するのがコマ撮りアニメだが、この映画は一軒家のセットを造り、その壁や床に絵を描いた。少しずつ違う絵を描いて撮影、消してまた描く、を繰り返して動きを付けてゆく。平面の描き消しだけでなく、立体アニメも駆使。壁の中を動いていた豚が、壁から抜け出して走り出す。しかもカメラは常に動き、全編ワンカットのように見せていく。一コマごとにものすごい手間と時間がかけられ、画面からあふれる作り手の執念に圧倒される。

この映画ばかりは百万言を費やしても伝わるまい。まずは一見を。1時間14分。東京・シアター・イメージフォーラムほかで公開中。大阪・シネ・リーブル梅田(9月8日から)ほか全国でも。(勝)

ここに注目

紙、粘土、プラスチックなどのさまざまな素材が立体的にうごめき、二次元の手描きアニメとともに絶え間なく変容し続ける映像世界に驚嘆。マリアのおびえを伝える息づかい、オオカミの不気味な呼び声も恐ろしい。カルトの呪縛を描いた作品は数あれど、こんなにも悪夢的な映画は見たことがない。(諭)

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