バッド・アンド・クレイジー © 2021 IQIYI INTERNATIONAL SINGAPORE PTE. LTD. All rights reserved.

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2022.4.30

先取り! 深掘り! 推しの韓流:「バッド・アンド・クレイジー」ハイテンションのサービス精神でくぎ付け必至

映画でも配信でも、魅力的な作品を次々と送り出す韓国。これから公開、あるいは配信中の映画、シリーズの見どころ、注目の俳優を紹介。強力作品を生み出す製作現場の裏話も、現地からお伝えします。熱心なファンはもちろん、これから見るという方に、ひとシネマが最新情報をお届けします。

勝田友巳

勝田友巳

先取り!深掘り!推しの韓流


アクション、コメディー、ロマンス、スリラー…ハチャメチャの全部盛り


この華やかさ、サービス精神! 娯楽要素のてんこ盛り、盛りがよすぎてあふれそうだが崩壊寸前で踏みとどまっている。ドラマ「バッド・アンド・クレイジー」は、アクション、コメディー、メロドラマ、スリラー、バディーもの……あらゆるジャンルの要素が毎回どころか毎シーン、手を替え品を替え供される。韓流のくどさは少々へきえき気味だったが、こう来るのなら歓迎だ。
 
正直なところ、物語の筋立てはどうでもいいのだ。男と女がくっつこうが離れようが、殺人事件の犯人が誰であろうが、映画もドラマも始まれば必ず終わる。どれだけドンデン返されようが、一つの結末に落ち着いてしまう。
 
「バッド・アンド・クレイジー」だって、波瀾(はらん)万丈の展開に結末が気にならないといえばウソになるけれど、こちとらどんなオチだって、今さら意外でもなく、驚きでもなくなっている。でも、見てしまう。ある意味ハチャメチャなのだ。


日和見警官スヨルと正義感強すぎのK

舞台はムニャン警察。日本なら内部監査室に相当するだろう反腐敗捜査係のリュ・スヨル(イ・ドンウク)は、高卒で出世第一。捜査中に部下と容疑者を死なせた麻薬班のキム・ゲシク警部に事情聴取するのも、上司の親戚を捕まえたゲシクを停職にして点数稼ぎしようという魂胆だ。麻薬班にいる元恋人のヒギョム(ハン・ジウン)になじられてもどこ吹く風。
 
しかしスヨルの行く先々に、ヘルメットに革ジャンの男(ウィ・ハジュン)がバイクに乗って現れて、ことごとく邪魔をするようになる。Kと名乗ったその男、腕っ節も正義感も強く、そして熱く暴走する。いったい誰だ、というのが物語の入り口で、ドラマは不可解な凸凹バディー物として始まる。
 
サスペンスでもある。制服警官のオ・ギョンテ(チャ・ハギョン)は行方不明の母親を捜す少女と出会い、母親の家で血まみれの髪の毛を見つけるが、現れた刑事のト・インボムに不法侵入だと非難されて暴行される。この不祥事をスヨルが担当することになったのは、インボムは有力議員ト・ユゴンのいとこで、出世のコネを期待したからだ。ところがユゴンには裏の顔があり、麻薬密売と結びつく。
 


場面ごとにジャンルが変わる!?

手段を選ばず不正を隠蔽(いんぺい)しようとする権力者と、正義の警官のせめぎ合い。力関係は二転三転し、日和見的なスヨルは時に保身のために変節し、その度にKが現れて懲らしめる。ヒギョムはゲシクと共に麻薬組織の後を追うものの、ゲシクにも怪しげな影が差している。一方Kはヒギョムに一目ぼれ。
 
さらに物語が進むと、ロシア帰りの麻薬密売組織と腐敗警官と正義のヒーローの三つどもえの戦いとなり、Kの正体が明らかになるとスヨルの過去がよみがえり、さらにヒギョムを巡る三角関係も深まっていく。
 
人物相関は錯綜(さくそう)し、登場人物の組み合わせで、場面のテイストはコロコロと変わる。Kとスヨルの場面にはアクションコメディー、ユゴンが地顔を見せるとスリラー調になり、Kとヒギョムの間はラブコメディー。こうして読んだって何のことかさっぱりだろうが、とにかく転調に転調を重ねて複数の物語を絡ませつつ進め、目まぐるしいほど目先が変わり、飽きさせないのだ。
 

停滞させない勢いと明快さ

展開は時々強引だし、ちょっと待てよと疑問もよぎるが、そこは勢いで押し切ってしまう。登場人物の性格がコロコロ変わるのもドラマツルギーからいえばルール違反すれすれ。まじめに筋立てを追えば途中で混乱するかもしれない。
 
それでも空中分解しないのは、場面ごとの作り込みに手をかけているからだろう。アクションはどの場面も工夫と迫力があり、セリフは気が利いているしキャラクター造形も巧み。善悪の色分けを明確にして人物の輪郭を際立たせ、要所に配したコメディーリリーフが緩衝材となって和ませる。
 
「イカゲーム」も「二十五、二十一」も面白かったが、長丁場の物語は途中で少々飽きた。「バッド・アンド・クレイジー」は筋立ての凝り方では及ばなくても、ハイテンションのサービス精神では負けていない。「トッケビ 君がくれた愛しい日々」のイ・ドンウクのコメディアンぶり、「イカゲーム」のウィ・ハジュンのキレのあるアクション。大がかりな製作体制と達者な役者たちがそろって、韓流の力強さに脱帽である。
 
Huluで独占配信中。

ライター
勝田友巳

勝田友巳

かつた・ともみ ひとシネマ編集長、毎日新聞学芸部専門記者。1965年生まれ。90年毎日新聞入社。学芸部で映画を担当し、毎日新聞で「シネマの週末」「映画のミカタ」、週刊エコノミストで「アートな時間」などを執筆。