「こころのふた〜雪ふるまちで〜」を語る高石明彦氏 撮影:下元優子

「こころのふた〜雪ふるまちで〜」を語る高石明彦氏 撮影:下元優子

2024.6.12

プロフィルになるような作品を作れたら「こころのふた〜雪ふるまちで〜」河村光庸の熱い思いを引き継ぎたい

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山田あゆみ

山田あゆみ

映画「こころのふた〜雪ふるまちで〜」は、若手の発掘、育成と地方創生を目的とした「私の卒業プロジェクト」の第5期の作品。将来に希望と不安を抱えながら高校を卒業していく若者たちの心の機微に触れながら、人生の岐路となる「卒業」をテーマに描く。今回は、新潟県新潟市と燕市の地元文化に触れながら、人口減少社会における問題に切り込んでいる。


 
脚本兼プロデューサーを務めた高石明彦氏は「作品を作れなくなるまでこのシリーズをやっていこうと思っています」と、シリーズに込めた思いを語った。高石氏は教育で人生が変わる瞬間に感動し、教師を志した過去があるという。そこで教育とエンタメの融合した企画を考えていたところ、小学館から一緒にやってみようと勧められ、私の卒業という企画が始まった。第1作からオリジナル脚本にこだわる本シリーズだが、2作目で高石氏にとって、大きな転機があった。映画「新聞記者」(2019年)の脚本に参加したことだ。
 

河村光庸の熱い思いを引き継ぐ映画づくり

「新聞記者」の脚本執筆の際に、河村光庸プロデューサーから大きな影響を受けたと高石氏は語った。「あの人に出会えてよかったと思っています。本当に魂がすごいんですよね。自分で社会を見つめる視点と、しっかりと発信していく強い意志を教わりました」。日本アカデミー賞作品賞、最優秀主演男優賞、最優秀主演女優賞を受賞したほか、脚本賞ほか計6部門にノミネートされた「新聞記者」は、話題となり多くの人が映画館に足を運んだ。
 
「社会派映画がこんなに注目されることに驚きました。表現の自由もあるし、もっと映像作品を通して社会で起きていることを伝えていきたいと思いました」。そして「私の卒業プロジェクト」2期目からは作品のテイストをがらりと変えて、社会性あるテーマを若者たちに伝える方向性になったのだという。
 
「河村さんは、作品を絶対お客さんに届けるんだっていう気持ちが、すごく熱いんですよ」と言うが、その熱意は高石氏の製作活動にもしっかりと引き継がれている。オリジナル作品の興行が厳しい昨今、高石氏は映像として観客が初めて触れるものという貴重さと、そこから得られる感動を伝えることを使命として、「私の卒業プロジェクト」ではオリジナル脚本を貫いているからだ。
また、台湾での放映が決定し、世界進出にも意欲的だ。「地方を元気づけることはもちろん、世界に発信することでロケツーリズムを促したい」と語った。
 
©私の卒業第5期製作委員会2024

若手発掘

「私の卒業プロジェクト」は、芸能事務所への所属・非所属を問わず、 俳優を目指す14〜24歳の若者を対象にオーディションでキャストを決定している。過去には、ドラマ「おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!」(2024年)に出演の大原梓や、特撮テレビドラマ「仮面ライダーギーツ」(22〜23年)主演の簡秀吉、そのヒロインの星乃夢奈。また、「ウルトラマントリガー エピソードZ」(22年)ヒロインの豊田ルナや、ドラマ「下剋上球児」(23年)で注目を集めた小林虎之介らを輩出。
5期目となる今回は、NGT48の小越春花、ミスマガジン2023グランプリの今森茉耶、CMやファッションモデルとして活躍する草野星華、テレビ東京開局60周年連続ドラマ「95」(24年)出演等、俳優やタレントとして活動中の阿部凜。この4人がヒロインを務める。撮影前に3カ月間のワークショップを設け、演技指導や役柄の理解を深めていった。「環境を整えることで、彼女たちの感情が自然に高ぶり、とても良い映像が撮れたんじゃないかなと思います」。中でも主演の4人が涙するシーンについては「ときには1時間かかることもありましたが、彼女たちが本当の涙を流すまで待ちました」。

さらに、生きづらい社会に疑問を投げかける志ある少年の役を「神は見返りを求める」(22年)「まなみ100%」(23年)に出演の下川恭平が務めた。政治に対して不信感がある世の中で、こういう人に政治家になってほしいという思いが込められた役だ。この役は、高石氏と下川くんで演出やせりふを含めて一緒に作り上げたという。「下川くんも、すごく丁寧に言葉一つ一つの意味をつかんでくださって、それをどういうふうに発信したら、正確に伝えられるかしっかり考えてくれました。一言一言優しく語りかけたり、ちょっとほほ笑みを入れたりするなど、彼も頑張ってやってくれました」とふりかえる。
最後に、現場で若者たちに伝えたいことについて「作品を作るのはとっても楽しいよっていうことを教えていきたいので、特に現場では笑顔や笑いを大切にしています。良い環境の中でみんなが楽しんで撮影できるように、監督とも話しながら行っています」。そして「彼女ら、彼らのプロフィルになるような作品を作れたら、と思います」と語った。

ライター
山田あゆみ

山田あゆみ

やまだ・あゆみ 1988年長崎県出身。2011年関西大政策創造学部卒業。18年からサンドシアター代表として、東京都中野区を拠点に映画と食をテーマにした映画イベントを開催。「カランコエの花」「フランシス・ハ」などを上映。映画サイトCinemarcheにてコラム「山田あゆみのあしたも映画日和」連載。好きな映画ジャンルはヒューマンドラマやラブロマンス映画。映画を見る楽しみや感動をたくさんの人と共有すべく、SNS等で精力的に情報発信中。

カメラマン
下元優子

下元優子

1981年生まれ。写真家。東京都出身。公益社団法人日本広告写真家協会APA正会員。写真家HASEO氏に師事

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