「歩いて見た世界」

「歩いて見た世界」©️SIDEWAYS FILM

2022.6.03

特選掘り出し!:「歩いて見た世界」 自然と人間、思索の旅路

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

パタゴニアや中央オーストラリアなどの紀行作家ブルース・チャトウィンが歩いた道や見てきた世界を、生前に親交のあった「アギーレ・神の怒り」の映画監督ヴェルナー・ヘルツォークが自身の足でたどったドキュメンタリー。7月29日に閉館する岩波ホールの末尾を飾るにふさわしい作品だ。

チャトウィンは、祖母の家にあった〝ブロントサウルス〟の毛皮をきっかけに人類史や考古学に関心を抱き、自らの足で旅をしながら小説を書く作家になる。歴史や自然、人間への敬意と探究を極めていく軌跡をヘルツォーク監督とともに見つめながら、ノマド(放浪者)にひかれていくチャトウィンの生きざまを映し出し、定住生活との違いを示す。

映像は壮大で美しく、世界の神秘に感嘆するが、それ以上に人々が築いてきた文化や生きるすべ、とりわけアボリジニの神話や土地と歌への考察は奥深く、全編が文明論に通じる思索の旅にもなっている。

今の時代に逆行する時間が止まったような映像が続き、アボリジニやチャトウィンの死生観まで盛り込んだ。伝記映画というよりも、感性を刺激しどう生きるかを問う映画である。1時間25分。4日から東京・岩波ホール、17日から大阪・シネ・リーブル梅田。(鈴)

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