毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2021.8.12
「ジュゼップ 戦場の画家」
1939年2月、画家ジュゼップ・バルトリはスペイン内戦から避難したフランスで、難民として強制的に収容所に入れられる。飢えや虐待、寒さなど過酷な日常に苦しむが、建物の壁や地面に黙々と絵を描き続ける。若きフランス人新米憲兵のセルジュは先輩の目を盗み、ジュゼップに鉛筆と紙を与え、2人の間に友情が芽生えていく。
収容所からの脱走、メキシコへの亡命など激動の時代を不屈の精神で生き抜いた一人の芸術家の生き様に迫ったアニメーションだ。収容所、メキシコ、現代など時代によって色調を明確に変えた。とりわけ一枚一枚のスケッチをつないだ収容所の絵の力強さ、映像からにじみ出る閉塞(へいそく)感は圧倒的だ。フランスのイラストレーターであるオーレル監督は、ジュゼップの実際の絵画やスケッチをアニメ化してスクリーンに多数映し出し、暴力やその悲惨さ、レジスタンスへの思いを、絵が持つ力そのままに表現した。現代と過去を結ぶセルジュの孫の存在も効果的だ。1時間14分。東京・新宿武蔵野館、大阪・テアトル梅田ほか。(鈴)
ここに注目
ほこりっぽい灰色と茶色の陰鬱なトーンで表現された強制収容所のシーンを中心に、画調を自在に変え、複数の時制を行き来する作風はアニメならでは。歴史的背景が分かりづらいのが難点だが、絵画という芸術が人間の尊厳を守る手段にもなるという主題が力強く伝わってくる。(諭)