83歳のやさしいスパイ  © 2021 Dogwoof Ltd - All Rights Reserved

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2021.7.08

83歳のやさしいスパイ

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

「80~90歳の電子機器を扱える男性求む」。探偵事務所の奇妙な求人広告で採用された83歳のセルヒオの仕事は、老人ホームのある入居者が虐待されていないか調査することだった。スマホに小型カメラ、使い慣れない道具を携え、彼は入居者として潜入する。

とはいえ素人のセルヒオ、暗号も調査対象の顔もうろ覚え、機器の使い方や調査の仕方もたどたどしい。いつ正体がバレるかとハラハラさせられるのだが、元々紳士的で、調査のためもあって人の話をよく聞く彼は、すっかり施設の女性たちからモテモテに。スリルあり笑いあり純愛あり、心温まるよくできたコメディーかと思いきや、これがなんとドキュメンタリーなのだ。探偵事務所で働いた経験のあるチリのマイテ・アルベルディ監督が、このような依頼が多いことを知り企画した。つまり出演者はみな本物の入居者。セルヒオが引き出した彼女たちの本音と素顔に、家族や、自分の将来が重なって見える。1時間29分。東京・シネスイッチ銀座ほか。大阪・テアトル梅田(23日から)などでも順次公開。(久)

ここに注目

 決して目立ってはいけないスパイだというのに、女性だらけの入居者たちにモテまくり、開けっぴろげに諜報(ちょうほう)活動をしてしまうセルヒオの一挙一動が何とも愉快。しかもこの老スパイ、〝聞き上手〟という意外な特技を発揮する。いくつもの小さなハプニングと発見に胸が弾む一作だ。(諭)