パワー・オブ・ザ・ドッグ Courtesy Of Netflix

パワー・オブ・ザ・ドッグ Courtesy Of Netflix

2022.4.08

特選掘り出し!:パワー・オブ・ザ・ドッグ 男らしさの陰を細やかに

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

今年の米アカデミー賞で作品賞など主要部門を中心に12ノミネートされ、監督賞を受賞した作品。1920年代のモンタナ州、大牧場主の兄弟、フィル(ベネディクト・カンバーバッチ)とジョージ(ジェシー・プレモンス)が出会ったのは、未亡人のローズ(キルスティン・ダンスト)。ジョージはローズと結婚するが、フィルは彼女と連れ子(コディ・スミットマクフィー)に冷たく当たる。

初めはこじれた家族の物語かと思いきや、その先に浮かび上がるのは〝男らしさ〟の呪縛をめぐるやるせない物語だ。かつて「ピアノ・レッスン」で女性の欲望を描いたジェーン・カンピオン監督が、カウボーイを主人公にした作品で現代と地続きの問題を描き出したことに、自身を更新し続ける監督の底力を感じる。

壮大な風景の中で感情の揺らぎが伝わってくるのは、監督の細やかな演出と、さりげない目の動き一つで複雑な内面を表現したカンバーバッチをはじめ、役者陣の好演あればこそ。不協和音とともに描かれる〝秘密〟をめぐるサスペンスには不穏なムードが充満し、最後まで見る者を翻弄(ほんろう)するようなエンターテインメント性がある。2時間8分。ネットフリックスで配信中。(細)