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2024.7.22
「エルピス」大根仁監督による、億の土地をめぐる、詐欺師たちとだまされる側のかけ引きを描く「地面師たち」:オンラインの森
2017年、東京都品川区五反田の土地をめぐる不動産詐欺事件により、「地面師」という怪しげな稼業が広く知られることとなった。地面師とは、他人の土地の所有者になりすまし、虚偽の売却を持ちかけて、多額の金をだまし取る、不動産詐欺の集団だ。
とはいえ、積水ハウスともあろう大手不動産会社が55億円もの大金をだまし取られるだなんて、地面師はいったいどんな手口を使ったのか? このNetflixシリーズ「地面師たち」には、その好奇心を満足させる答えが詰め込まれていた。
全7話からなる本作は、19年に刊行された新庄耕の小説「地面師たち」(集英社刊)が原作になっている。新庄は地面師の実態を綿密にリサーチし、地面師集団を主人公にしたピカレスク小説を生み出した。「モテキ」や「エルピス」などで知られる映像ディレクターの大根仁が原作にほれ込み、自ら出版社と交渉し、Netflixに企画を持ち込み、ドラマ化が実現した(以下、内容に触れています)。
それぞれの役割をになう5人の地面師たち
時代はオリンピックを前に地価が高騰し、地面師による犯罪が増加していた17年。ある事件で妻子と母を亡くし自暴自棄になっていた辻本拓海(綾野剛)は、大物地面師のハリソン山中(豊川悦司)にスカウトされ、彼が率いる地面師集団で交渉役を任されていた。
メンバーは詐欺の舞台となる土地を見つけてくる「情報屋」の竹下(北村一輝)、地主の〝なりすまし〟をキャスティングする「手配師」の麗子(小池栄子)、元司法書士の「法律屋」・後藤(ピエール瀧)を含む5人で構成されている。
第1話では、東京都渋谷区恵比寿の土地をエサに、新興の不動産会社マイクホームズの真木社長(駿河太郎)から10億円をだまし取る手口から資金洗浄の流れまでが、一通り描かれる。視聴者はこのエピソードで地面師集団の基本的な手口を学び、第2話から始まる「死人がゴロゴロ出そうな山」(byハリソン山中)へのウオーミングアップを済ませるというわけだ。
その「死人がゴロゴロ出そうな山」の舞台は、再開発中だった高輪ゲートウェイ駅にほど近い、泉岳寺の広大な土地だ。時価100億円ともいわれるその土地の所有者は、隣接する寺に独りで暮らす女性住職・川井菜摘(松岡依都美)である。
地面師集団は、地上げ屋の林(マキタスポーツ)やナンバーワンホストの楓(吉村界人)らを巻き込んで、大手デベロッパー・石洋ハウスの開発事業部部長・青柳(山本耕史)にその土地を売りつけようとする。本物の地主である川井は、もちろんそのことを知る由もない。
綾野剛、豊川悦司ら地面師たちと、不動産デベロッパー、刑事との三つどもえ
最大の見どころはやはり、だます側(地面師)とだまされる側(不動産会社やデベロッパー)の、土地を巡るかけ引きだ。かつてハリソン山中を逮捕しそこねた定年間近の刑事(リリー・フランキー)と、新人巡査(池田エライザ)の、年の差バディーが、地面師を追いつめていく。
ハリソン山中は、最高の地面師チームを手に入れたことでより高い山を登りたくなってしまった。不動産デベロッパーの青柳は、己の失敗を取り返すためにむちゃをした。そして刑事もまた、定年間近というタイムリミットに突き動かされた。東京オリンピックを前にしたタイミングで、それぞれの理由で欲をかいた面々が三つどもえになって転がっていく。
キャストは全員文句なしに会心の演技を見せているが特筆したいのは豊川悦司が演じるハリソン山中だ。常に穏やかでエレガントだが、エピソードを重ねていくにつれて、その仮面の下に隠されていた、究極のエクスタシーとスリルを求める異常性があらわになっていく。豊川は一度も声を荒らげることなく、最狂&最凶のキャラクターを生み出した。
そのハリソンが唯一信頼する人物・拓海の過去や、ハリソンとの出会いや因縁は追い追い明らかになっていく。2人の濃密な師弟関係が全7話の通奏低音となることで、人間ドラマとしての色気と厚みが増している。
個人的にしびれたシーンは、第3話のオープニングだ。天井の低いトンネルの内部を、石洋ハウスの面々が背中を丸めながら出口に向かって足早に歩き、そのシルエットをカメラが背後から追っていく。外に出たところで青柳が「ぶっ壊しちまえばいいんだよ。古いものは全部」と言い放つと、彼らをとらえていたカメラがパンしてトンネル上部を映し出す。
そこに広がるのは、都心の大規模な工事現場の光景だ。一枚絵としての迫力に圧倒されると同時に、このようにスクラップ・アンド・ビルドを繰り返す東京だから地面師たちが跋扈(ばっこ)するのだと、一発で伝える珠玉のショットである。
カット割り、俳優たちの演技、音楽……、スリリングな演出がさえわたる
そして最終話の冒頭では、具体は避けるが、一分一秒を争う展開でスリリングな演出がさえわたる。例えるならば、米アカデミー賞で作品賞を受賞した、「アルゴ」(12年)のクライマックスに匹敵するレベルのスリル。「アルゴ」は実際にあった人質奪還作戦が題材なので、いわゆる「オチ」はわかっているのに、演出の力で観客をハラハラさせた。本作も予想通りに展開するのに、カット割りとストップモーション、時刻のテロップ、音楽、そして俳優たちの迫真の演技により、何度見ても緊張で胃が締め付けられるスリルを作り上げている。
このシーンと、先の工事現場のショットには、観客に作品の世界観を体感させる、エンターテインメントとしてのパワーがある。映像ディレクター、大根仁監督のネクストステージを堪能できる、見始めたら止められない全7話となっている。
「地面師たち」はNetflixで7/25(木)より独占配信開始