「アキラとあきら」©2022「アキラとあきら」製作委員会

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2022.10.11

「偶然」を「運命」に変えるベアリング 「アキラとあきら」に仕掛けられた反復:よくばり映画鑑賞術

映画の魅力は細部に宿る。どうせ見るならより多くの発見を引き出し、よりお得に楽しみたい。「仕事と人生に効く 教養としての映画」(PHP研究所)の著者、映画研究者=批評家の伊藤弘了さんが、作品の隅々に目を凝らし、耳を澄ませて、その魅力を「よくばり」に読み解きます。

伊藤弘了

伊藤弘了

1度目の出会いは単なる偶然で済まされるかもしれない。だが、同じようなシチュエーションで2度目の出会いを果たしたとき、人はそれを「運命」と呼びたくなる。
 
映画はそうした反復、すなわち「運命」を描くことにたけたメディアである。すぐれた映画は、構図や音響(セリフ、音楽)、モチーフを巧みに駆使して観客に「繰り返し」を意識させる。観客はそのようにたくまれた「繰り返し」を手がかりにして映画を再構築し、それによってはじめて作品の全体像を捉えられるようになる。難解なパズルのピースを独力で組み合わせて壮麗な一枚絵を完成させた観客は、大きなカタルシスを得る。
 

 
*編集部注:この記事は物語の結末まで明かされています。
 

対照的な少年2人 偶然の出会い

もっとも、「アキラとあきら」で鍵を握るのはパズルのピースではなく、ベアリング(軸受け)である。どんなに巨大な船であっても、分解していけば最後にはこの部品にまで行きつく。この小さな金属製の部品がなければ、船は文字通り沈んでしまうのである。
 
山崎瑛(アキラ、竹内涼真)の父親が経営していたのは、そのようなベアリングを作る町工場だった。しかし、銀行からの融資が打ち切られ、倒産の憂き目に遭う。アキラが小学生の頃の話である。差し押さえられた機材がトラックで運び去られる際、ベアリングを落としていく。それを拾ったアキラはトラックを追いかけ、その途中で階堂彬(あきら、横浜流星)を乗せた高級車に轢(ひ)かれそうになる。そのときにアキラが落としたベアリングをあきらが拾い上げ、ハンカチで拭ってから手渡す。これが二人の1度目の出会いである。


 

伝説の研修 粉飾決算めぐる駆け引き

この偶然の出会いのあと、アキラとあきらは別々の人生を歩む。二人はともに東大を卒業し、産業中央銀行の同期として再会を果たす。もちろん、二人はこれが初対面だと思っている。爪に火をともすような過酷な生活を送ってきたアキラと、大企業の御曹司として育てられたあきら。生育環境も、その信念も対照的だが、いずれもずば抜けて優秀な能力を持っている。
 
早くも新人研修の際に、二人は後々まで語り草となるような伝説的なパフォーマンスを披露する。アキラとあきら、それぞれが所属するグループは抜きんでた成績をあげ、研修の最終プログラムで実践形式の融資対決をおこなうことになる。アキラのチームが融資の審査を務める銀行役を、あきらのグループが融資を申し込む会社役を務めたこの対決では、あろうことか会社側が粉飾を施した資料を提出する。もちろん、あきらのアイデアである。巧妙にカモフラージュされた粉飾を、しかしアキラは見逃さなかった。予定調和に収まらない二人のスリリングな駆け引きは、その場に居合わせた融資部長(奥田瑛二)から絶賛される。


 

無慈悲な上司の指示に逆らい

将来を嘱望された二人だが、あるとき、アキラが融資を担当していた小さな工場が大口取引先の倒産にともなって連鎖倒産してしまう。その工場の社長には難病を抱えた娘がおり、アメリカで手術を受けるための数千万円の費用を別の銀行に預けていた。アキラの上司は預金の差し押さえを指示するが、アキラはそのことを工場の社長に伝え、預金を移すことを勧める。
 
アキラが銀行員になったのは人々を救うためである。父の工場を見捨てた銀行を、当時のアキラは激しく憎んだ。しかし、ある一人のバンカーとの出会いを通してその考えをあらためる。父が再就職した親戚の会社もまた苦境に陥ったが、それを全力で助けようとしてくれた銀行員(満島真之介)の姿勢に大いに感銘を受けるのである。


 

顧客を救い左遷されるアキラ

アキラが差し押さえの情報を漏らしたことで、結果として社長の預金は守られ、娘は救われた。しかし、彼の行為は銀行員の禁忌に触れるものだ。銀行に対する背信であり、同僚に対する裏切りにほかならない。融資が回収できなければ、銀行はその分の損失を被る。それはほかの行員たちが地道に集めた預金を無に帰すことを意味する。
 
アキラは牧師ではなく(じっさいに牧師になるのはアキラの父親の工場に勤めていた従業員=塚地武雄=だ)、銀行員である。銀行員としての職責をまっとうしながら人を救わなければならない。地方支店に飛ばされたアキラにそのチャンスが訪れるのは、数年後のことである。


 

一族を救うために銀行を辞めたあきら

地方支店で実績をあげたアキラが本社に戻ってくるのと時を同じくして、あきらの父・階堂一磨(石丸幹二)が倒れてしまう。一磨は東海郵船という大企業の社長を務めていた。既定路線の進路を嫌って銀行員になっていたあきらに代わり、弟の龍馬(高橋海人)が新社長に就任する。しかし、グループ会社の社長である叔父たち(ユースケ・サンタマリア、児嶋一哉)に言いくるめられた龍馬は、多額の負債を抱えるリゾートホテルの債務保証を引き受けてしまう。
 
このままでは東海郵船も倒産しかねないという状況で、あきらは銀行を辞め、龍馬から社長の座を引き継いで立て直しの道を模索する。ここでアキラが銀行員として力を貸し、二人で難局を乗り越えようとする過程が本作のクライマックスをなしている。
 
なかなか有力な打開策は見いだせず、八方塞がりかと思われたところで、アキラが意想外のスキームを導き出す。そして、銀行員生命を懸けて作成した稟議(りんぎ)書を上司の不動(江口洋介)に提出し、頭取の裁可を得ることに成功する。


 

船=あきら ベアリング=アキラ

このクライマックスでは、それまでに描かれてきた伏線が一気に回収されていく。まず大枠として、東海郵船という「船」に関係するあきらの会社を、その礎となる部品(ベアリング)を作っていた工場の息子であるアキラが助けようとする構図が設定されている。アキラの助けがなければあきらの船は沈没してしまうのである。
 
また、新人研修では会社役を担当したあきらが粉飾をおこなっていたが、今度は自分が仕掛けられる側に置かれる。叔父たちが提示したリゾートホテル関係の書類にはあからさまな粉飾が施されていたのである。研修の際には融資見送りの判断をされてしまったが、今度は何としてでも融資を引き出さなければならない。


 

難局超えた二人が知る運命の出会い

アキラが稟議書を出したときの上司は、地方へ左遷されたときと同じ不動であり、その稟議に裁可を下した頭取は新人研修に居合わせたかつての融資部長である。主要人物たちが立場を変えて一堂に会していることになる。
 
何よりこれはアキラにとってのリベンジマッチである。銀行を裏切って自分のキャリアを犠牲にした前回と同じ轍(てつ)を踏むわけにはいかない。自分の信念を貫き通し、あくまで銀行員としてしかるべき手続きを踏んだうえで融資をおこない、あきらの会社を救うのである。
 
すべてが終わったあと、あきらはアキラの地元を見せてもらいに行く。そこでアキラは肌身離さず身につけていたベアリングのネックレスをうっかり地面に落としてしまう。それをあきらが拾い上げ、ハンカチで拭って差し出したとき、二人は幼少期に同じ場面を経験していたことを思い出す。そして、自分たちの出会いが「運命」であったことを知るのである。
 
全国で公開中。

ライター
伊藤弘了

伊藤弘了

いとう・ひろのり 映画研究者=批評家。熊本大大学院人文社会科学研究部准教授。1988年、愛知県豊橋市生まれ。慶応大法学部法律学科卒。京都大大学院人間・環境学研究科博士後期課程研究指導認定退学。大学在学中に見た小津安二郎の映画に衝撃を受け、小津映画を研究するために大学院に進学する。現在はライフワークとして小津の研究を続けるかたわら、広く映画をテーマにした講演や執筆をおこなっている。著書に「仕事と人生に効く教養としての映画」(PHP研究所)。


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