国際交流基金が選んだ世界の映画7人の1人である洪氏。海外で日本映画の普及に精力的に活動している同氏に、「芸術性と商業性が調和した世界中の新しい日本映画」のために、日本の映画界が取り組むべき行動を提案してもらいます。
2023.7.24
見逃すな! 世界に誇るスーパーエンターテインメント「キングダム 運命の炎」
「彼の名声は西欧言語でダンテ、シェークスピア、モンテーニュ、ゲーテとトルストイが見せてくれた卓越さのように永遠なものだ。……セルバンテスは書き方を知り、ドンㆍキホーテは行動の仕方を知っていた。この二人はひたすらお互いのために生まれた」
一連の連想の出発点から思い出すのは、アメリカの批評家ハロルドㆍブルームの著書(「Cervantes's Don Quixote - Bloom's Modern Critical Interpretations」、Chelsea House Publishers, 2000)の一節である。人物の典型性を風刺するために生まれたアンチヒーローという見方もあるが、ラテン文学の説話の様式と12~13世紀の叙事詩の旅行や武勇の内容、そして恋愛叙情詩の情緒を活用した騎士道物語で人類文化史の金字塔となった傑作を規定するにあたって、実に的確なものに違いない。
面白いのは軍人として海賊に拉致された冒険まで経験した作家が、屈辱に耐えながらも優しい心や信念を諦めない騎士を描くドンㆍキホーテ、つまりセルバンテスのセンチメンタルㆍレガシーが現代にも受け継がれており、その典型ともいえる人物が筆者の親友の中に存在するということ。サンㆍセバスティアン国際映画祭プログラマーのロベルトㆍクエトがその主人公なのだ。マドリード・カルロス3世大学の教授であり、映画評論家でもある彼は、映画祭のボランティアの人気を独り占めするほど愉快でユーモラスで、授賞者が登壇した時、受賞者が感想を話しながら喜びの涙を流す姿を見て、一緒に涙を拭うほど優しい心の持ち主である。また、映画産業の誤った慣行などを批判する時は、義俠心(ぎきょうしん)のあふれる「正義のエネルギー」を発散する点で間違いなく「カバリェロ(caballero)」だ。
この「マドリードのカバリェロ」と私が映画について話す時、いつも合意するポイントがある。「ストーリーテリングの充実」という映画の本領だ。これはコロナ禍以後に加速化した配信の需要増加に伴う劇場の危機ともつながる話だ。そもそもノートPCのモニター、あるいはスマホの画面などでどこでも映画が見られる新技術が出た時、数多くの映画人は危機感を感じながらも「大画面と音響が伝える満足感は侵されない絶対的な領域として残るし、これに対する需要として劇場の生命力が続くだろう」と信じていた。しかし、今の現実ではこのような予想が少なからず外れたことが証明され、世界の映画市場は当惑している。例えば韓国では、いくつかの配信シリーズが記録的な成功を収めるにつれ、有能なスタッフㆍキャストの異動が激しくなり、危機感が高まっている。
なぜ夢中にさせる⁉ 佐藤信介監督の〝映画人としての地肩の強さ〟
このような現実の中で、佐藤信介監督の「キングダム 運命の炎」は、新しい時代の映画の本領を示す力作だと断言できる。その根拠として言及したいのが、騎士道物語の伝統を受け継ぐセルバンテスの文学が、21世紀にも人類を熱狂させているという事実である。セルバンテスは過去と当代の多様なストーリーテリング様式を実験し融合、時代の変化を洞察した創意的文学の地平を開いた。独創的に創造した主人公の放浪と対話に民話や寓話(ぐうわ)など、あらゆる形の物語を網羅した西洋初の近代小説を誕生させたのだ。
世間に知られているように、佐藤信介は自主映画を作り、脚本家として映画界に入門し、映画化が難しいSF漫画を映画化して海外映画祭で絶賛された。マニア層だけでなく、ゲームに興味がなかった人々まで購買者として引き込む効果で話題になったゲームムービーを製作する一方、配信シリーズで「メード・イン・ジャパン」コンテンツグローバル化の先頭に立った。ここで注目すべきことは、当初彼がメディアを区分したことがないということ。それでゲームの世界ではエモーショナルなことを、映画の世界ではゲーム的なことを実現した。
このようなキャリアの精粋である「キングダム 運命の炎」を見てみよう。
「キングダム 運命の炎」が魅せる、ストーリーテリング×テクノロジーの妙
主人公の「信(山﨑賢人)」は英雄の血統や帝王の運命、ハリウッドの時代物主人公がよく持っている絶対的なフィジカルの優位とは無縁の人物、いや、むしろ戦災孤児として育ったという不運な成長背景を持っている。しかし「ラㆍマンチャの男」のように不可能に近い天下の大将軍の夢に向かって勇気を出しながら進む。その中で彼を支持する仲間たちが集まり、一個人の非凡さではなく、逆境に耐える普通の人々の団結した力を見せることで神話の領域にいた「中原の英雄」を客席の観客の隣席に連れてくる。
このようなストーリーテリングは拡張力を持つ。日本だけでなく、騎士道物語を叙事の典型として意識に刻み込みながら育った欧州の人々に無限のカタルシスを伝える(佐藤信介がメリエス国際映画祭連盟の映画祭を中心にマニアを確保したのを振り返ってみよう)。映画の背景は春秋戦国時代だが、それは想像力の舞台を拡張させただけで、中国歴史に対する専門的知識などは不要なのだ。ここに再びひとつの「クエスト」を解決する度にユーザーと共に成長していくゲームの満足感が加わる。要するに「インタラクティブ(Interactive)の快感」が2Dのメディアである映画に加わるのだ。
さらに完成度に対する製作陣の高い意志はここで止まらない。MX4D、4DX、ドルビーシネマ、IMAX時代の先端を走るハイテクノロジーは、蒸し暑い真夏、映画館に駆けつける観客の情熱に応えるかのように「選ぶ楽しさ」までも提供しようと万全の準備を整えた。しばしばメカニズムが手段ではなく目的になってしまう最近の映画産業の本末転倒を克服する「ストーリー主導型エンターテインメント」のシステムが完成する瞬間である。このような佐藤信介の活躍により、日本映画は「スター・ウォーズ」に匹敵するブロックバスターシリーズを持つことになるかもしれない。最後に7月28日を待つ観客の皆様に申し上げる。
「You can buy your ticket without hesitation. 130 minutes without regrets are waiting for you! 」
(迷わずにチケットを買ってもいいです。悔いのない130分が皆様を待っていますよ!)
2023年 7月28日(金) 全国東宝系にて公開。