東京オリンピック2017 都営霞ケ丘アパート (c)Shinya Aoyama

東京オリンピック2017 都営霞ケ丘アパート (c)Shinya Aoyama

2021.8.12

時代の目:東京オリンピック2017 都営霞ヶ丘アパート かき消された小さな声

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

興奮と困惑が半ばして閉幕した東京オリンピック。このドキュメンタリーは五輪の影、権力と市民の関係を映す。今見るべき一本だ。

国立競技場に隣接した都営霞ケ丘アパートは、1964年の前回東京五輪開催時に建てられ、今回五輪で一帯を再開発するため2017年までに取り壊された。青山真也監督は14年からアパートに通い、移転を強いられた住民たちの姿を記録した。

築50年のアパートは高齢化が進み、平均年齢は65歳以上という。身体障害を抱えた男性や、夫に先立たれた独居の女性らも、等しく期限付きの立ち退きを迫られる。住み慣れた環境から離れることも、不自由な体や心もとない収入で引っ越しの準備をすることも、彼らの意思とは無関係だ。前回の五輪で霞ケ丘に転居し、生涯で2度も五輪のために立ち退かされたという住人もいる。

住民の有志が要望書を提出し記者会見を開いたが、蟷螂(とうろう)の斧(おの)。困惑と憤りと、やがて諦めと。転居後に亡くなった人もいるという。巨額の税金を投入したのは誰のためか。かき消された小さな声を、忘れてはいけない。1時間20分。東京・アップリンク吉祥寺、大阪・シネ・ヌーヴォ(28日から)ほか。(勝)